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君のため
5※綾西 泰地視点



 あぁ、癒される、心地が良い。やはり、弥生とのこの時間は特別なものだ。
 今はもう食事を楽しむよりも弥生との会話を楽しむことの方が自分にとって有益に感じるほどに。
 

 祖母が外人らしく、髪の毛はきれいなミルクティー色をしており、それは耳が隠れるほどの長さまで伸ばされている。
 白い肌にほんのりと赤い唇、そして頬。くっきりとしたアーモンド形の目の縁を囲む長いまつげ。
 その容姿は酷く儚げで、例えるならば天使。もうそれは冗談ではなく本気でいえる。



 「どうかしたの?泰地」


 「んー、弥生に見惚れてたぁ」


 「え?なーに言ってんのおバカ」


 弥生はクスッと笑い、俺のでこにデコぴんをしてきた。その行為に俺はなんだか嬉しくなり頬を赤らめる。


 些細な行為でさえ、それに愛を感じることができる。
 暖かい笑顔、優しい弥生。見た目だけでなく弥生は中身も最高だ。


 だから...そんな弥生だからみんなも好きになったんだ。晴紀も和史も、皆、皆。

 だけど俺はそのことについては何とも思わない。
だって俺も晴紀も和史も弥生の横に立つ“権利”があるんだ。
 理由は簡単。地位もルックスも俺達はそろっているから。

 それらが揃っているから俺たちはこれまで4人で仲良く弥生と一緒にやってこれた。
 そうじゃなければこうも上手くこの関係が続くわけがない。


 きっとこれは晴紀も和史も同じ考えだと思う。
だからそれがそろってもいない者は弥生に近づく資格もないんだ。



 「ねぇ、今度はこれ食べてみてよぉ!おいしいよ〜」



 自分のランチを一口分箸でつまみ、弥生の前に差し出す。
 “えー、”といいながらも、小さなその口で弥生はパクリとそれを食べてくれる。


 あぁ、可愛い。あぁ、愛しい。

 溢れるほどの愛情。心がポカポカと温まり、ドキドキと胸が高鳴る。



 だから気がつかなかった。



 忍び寄るあいつの暗い足音には。



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