君のため
2
「わーんこ」
「...っ!」
沈んでいく思考の中、聞こえた声。突然後ろから抱き締められて歩みが止められる。
憎い...憎い声。背中から伝わる気持ちの悪い体温。
「来るのが遅せぇ。もっと早く来いよな」
「っ、離れろ!」
ガッと肘を叶江に向かって当てる。しかし寸前で避けたのか、あまり当たった感触はなかった。
だが、そのおかげで叶江から離れることができた。
「はぁ、せっかく躾けてやったのにもう生意気に戻ってるし」
「黙れ」
何が“躾”だ。あんなのはただのあいつの自己満足なだけの...
なんとか理性を保ち、募っていく怒りを胸の内に秘める。
ここで動いてはいけない。これから...これから徐々に追いつめていくのだ。
とりあえず一端叶江から離れ、さっさと食堂に行ってしまおう。これ以上こいつと一緒にいたら気が狂ってしまいそうだ。
「なぁ、宵人は元気か、今もまだおねんね中?」
「...っ!」
移動しようと叶江に背を向けた時そう、どこか楽しげに言う叶江の声を耳でとらえた。
その瞬間、身体の全体に力が入りところどころ血管が浮く。
拳は力を入れすぎて白くなってしまっていた。
ふざけんな...っ、宵人は...宵人は...っ
頭が熱くなって胸がきりきりと痛み苦しくなる。
段々と冷静な判断ができなくなっていく。
「あの時死んどけばよかったのになぁ、てか今ももう死んでるようなものだろ。早く葬式やってやれよ」
その時、頭の中で何かが切れる音がした。怒りで視界が真っ暗になる。
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