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君のため
7※綾西 泰地視点



 何なんだ何なんだ何なんだっ!!


 煩く鳴る心臓、冷や汗が頬を伝う。
あいつ...千麻 愛都と会うのはこれで2度目だ。1度目の出会い、それは忘れもしない高1の夏。


 細く、柔らかい髪が汗ばんだ額にはりつき、目からはたくさんの涙が溢れては流れる。
 そんな奴が出す喘ぎ声。快感を与えればビクつく肢体。歪む顔...


 1年半も前の話だ。しかし、それは今でも鮮明に覚えている。まるで先ほどそれが行われたかのように...

 それから誰と寝ようと忘れることができなかった。ずっと...ずっとずっとずっと...


 「弥生...」


 弥生に会いたい。あの優しさが恋しい。俺を包み込む太陽みたいな大切な人。

 唯一俺が千麻 愛都を忘れることができるのは、弥生と一緒にいるときだけだった。
 ざわつく胸、不安定な心。


 「なんで今さら...」


 あの平凡の仕返しにきたのか...?
あの夏の日、千麻宵人は自殺したと聞いた。生きているのか、死んでしまったのかはわからない。
 弥生に近づきさえしなければ、あの平凡には特に興味などもなかったから...


 ただ排除するために...俺の大切な弥生から平凡を引き離すために俺は...

 でも俺は悪くない。正しいことをしたまでなんだから。
 悪いのはあいつだ。あの平凡はどれだけイジメても弥生から離れようとしなかったから。
 平凡の分際で弥生に...いつも気をかけてもらっていたから...



 それなのにあいつは...千麻 愛都は時をおいてここへやってきた。
 俺を見透かす目。有無を言わせぬ強い口調。

 あの日の妖艶さなど微塵も感じさせられなかった。あるのは――恐怖。


 俺の幸せを潰しに来たのか。


 嫌だ...嫌だ嫌だ...1人になりたくない。愛されたいんだ。
 誰かに愛されていたいんだ。


 焦りから震える手を俺は強く握り締めた。



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