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君のため



 「ここの学校のシステムや校風はわかるかな?」


 「...はい。学校から送られてきていた資料を読んだので大丈夫です」


 というか元々俺はここに宵人と通う予定だったのだ。だからそこら辺はもうずっと前から知っているし、
それでなくても宵人が通っていたのだ、そんなこと聞かなくても分かっている。


 この男は俺と宵人の繋がりを知らないのだろうか。



 「そうか、それじゃあ他に何か聞きたいことなどはあるか?」



 教室への道を歩きながら井中はそう訊ねてきた。
 俺の斜め前を歩く井中の横顔を見つめ、横目に見てきたその瞳と目を合わせる。



 「ここの学校に恵 叶江という生徒はいますか?」


 「...あぁ、3−Cに同じ名前の奴はいるが。たしか1年の夏の頃に転校してきた...。その生徒がどうかしたのか?
もしかしてさっき言ってた会いたい奴というのはその生徒のことか」


 ――やはり、いた。ここに叶江も転校してきていたのだ。



 「少し違いますね...会いたいのはその生徒の他にも何人かいるので」


 宵人が病院に運ばれた翌日、俺はすぐに叶江のマンションへと足を運んだ。

 目的はもちろん、憎しみを晴らすため。


 しかし、奴はそこにいなかった。いや、正しくは“何も”なかったというべきか。

 叶江が住んでいたはずの室内には奴はもちろんのこと、家具も何もかも残されておらず
もぬけのからという状態だった。


 茫然とした俺は釈然としないまま、その部屋を後にした。
 あいつは一体どこに...
そんなことを考えながらエントランスに出た時、このマンションの管理人だと名乗る男に呼び止められた。



 その男に名前を聞かれ、怪しみながらも答えればあるB5サイズの封筒を渡された。


 “恵 叶江というお坊ちゃんに君が来たら渡すよう頼まれていたんだよ。
来るまで部屋の鍵も開けとくよう言われていたから、ちょっと困っていたんだが...早く来てくれてよかった”

 俺が封筒を受け取れば男は安心したように笑顔になり、鍵を閉めに行くのか俺が来た方向へと歩いて行った。


 封筒の中に入っていたのはこの学校のパンフレット。ただそれだけだった。



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