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君のため




 あの後、まっすぐ俺はこれから通う全寮制の学校へと運転手に送ってもらった。

 だだっ広い校内に入った俺はすぐに職員室に行き、担任であろう男を捜す。


 「あっ、君は愛都君だね。こんにちは、私は3−Aの担任の井中です。今ちょうど君を迎えにいこうと思っていたところなんだ」



 キョロキョロとあたりを見回していると、きっかりとスーツを着たまじめそうな男が近づいてきた。



 「そうだったんですか。お気遣いありがとうございます。これから1年よろしくお願いしますね、井中先生」


 「おぉ、愛都君は礼儀正しいな。アメリカの方ですでに大学も卒業したと聞いているし、とてもよい教育を受けてきたんだね」



 笑顔の仮面を張りつけそう返答すれば、井中は感心したようにほめてきた。


 問題児じゃなくてよかった。まるでそういっているかのように。


 人が求める理想の性格。そして人々を説得させるための弁論術。誰もが好意を持てるような笑顔。

 それらも全て熟知した俺にとってこの目の前の男によい印象を与えるということは簡単なことだった。



 「それにしても一体どうして愛都君はわざわざまた高校に通ったりなんかするのかな。全ての教育を終えたのに」


 「それは...会いたい人がいるからですよ。とてもね」


 「そう、なのか?っと、そろそろ時間だな。すまない話の途中だが、HRまで時間もギリギリだし教室に向かおう」


 一瞬、頭の上にハテナを浮かべる井中だが、壁にかけられている時計を見て、少し早口で話を終わらせてきた。


 そして俺を廊下のほうへ促し、目的地に向かって歩み始めた。


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