[携帯モード] [URL送信]

君のため




 扉に鍵が掛かっていなかったことに一瞬疑問を持つが、それも深くは考えず宵人を探し出そうとそうと気をそちらへと戻す。


 ――ガタッ、



 「...何の音だ。宵人、か?」



 靴を脱ぎ、一歩踏み出したとき上の階から何かが倒れる音が聞こえてきた。
 すぐさま俺は音のしたであろう場所へと向かう。



 「宵人っ!どこにいるんだ!!」



 二階に上がるが、そこは物音一つせず、廊下は静まり返っていた。



 「宵人...宵人!部屋にいるのか?なぁ、」



 しかし、ここの階のどこかに宵人はいるはずだ。必ず...。
 足早に宵人の部屋の前へ行き、ノックをし、名前を呼ぶが返事は来ない。



 「宵人、いないのか...?」



 ガチャリと宵人の部屋の扉をゆっくりと開ける。
部屋の中へと一歩踏み出し、顔を上げた俺は一瞬その体勢のまま固まった。



 「よい...と、」



 肉を絞める縄の微かな音。その縄に首を絞められ吊るされている――俺の大切な義弟である宵人。


 薄く開けた虚ろな瞳に、口元から伝う唾液。


 あまりの衝撃の強さにすぐさま体を動かすことができなかった。


 「あ゛あぁ...っ、ぅ..ぁ、よい...と、」


 痙攣しているように小刻みに震える宵人の体。
...生きている。まだ宵人は生きている。
 だが、体が動かない...。動けよ!動けよ動けよ動けよ!!


 「、ま...なと...っ」



 重なり合う視線。そして宵人の口から俺の名前が出た瞬間、俺は宵人を助けようと動き出した。


 机の棚にあったカッターを掴み、近くに転がっていた椅子を宵人の前に置く。
 その上に立ち、宵人の体を抱きこむと首を絞める縄をすぐにカッターで切った。
どさりと俺の体にもたれ、体重を乗せてくる宵人。


 「宵人...宵人、大丈夫か...?」



 だがその呼びかけに宵人は答えてくれない。
椅子から降り、ベットの上に宵人を寝かせる。まさか、と思い宵人の口元に頬を近づける。
 

 ――呼吸をしていない


 「そん...な、嘘だ...嘘だ嘘だ嘘だあぁっ!」

 
 ピクリとも動かない宵人の体。
俺の叫ぶ声と共に悲痛の涙が瞳から溢れ出した。



[*前へ][次へ#]

40/42ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!