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君のため
始まりは、



「愛都。僕、恋人ができた 」

それは、突然やってきた俺たちの人生を狂わせるきっかけとなった一言だった。

「恋、人...?」

俺の目の前にいる同い年の義弟である宵人は恥ずかしそうに、はにかんで笑う。

黒い髪に特徴のない顔立ち...世間一般でいう平凡な容姿の宵人だが、俺にはその笑顔は
どんな綺麗な男がつくった笑顔よりもずっと綺麗に思えた。

 「 今日、告白したらOKもらったんだ...。前にここへ来る途中不良に絡まれたんだけどその時に助けてもらって、そして一目惚れしちゃって 」

 「...ん、え?ちょ、ちょっと待て。ツッコむところがありすぎて反応が...」

 「まぁ、えと簡単に言うと、その助けてくれた男の人と恋人同士になった、みたいな 」

 あはは、と顔を赤くして笑う宵人に俺は何も言い返すことができず、ただただ固まる。

 ...男に...一目惚れ??
頭の中が上手く回らない。宵人が言っている言葉も俄かに信じ難いものだった。

 「ま、愛都、大丈夫?」

 「...あぁ、えと、ちょっと驚いて。」

 あからさまに態度がおかしくなる俺を宵人は心配そうに眉を下げ見つめる。

 『言わなければよかっただろうか 。気持ち悪い思いをさせてしまっただろうか 』

 そんなことを言っているかのように、

 「本当に大丈夫だって。別に男同士に偏見はそんなにないし」

 ...なんて、嘘だけど。本当は全然大丈夫なんかじゃない。男同士にだって、偏見は持ちまくってる。

 宵人は俺にとって大切な存在。
本当は男なんてやめろ、と叫んでしまいたいほどだった。

 「そう...?なら、よかった。いや〜、僕もまさか男の人に惚れるなんて考えもしなかったんだ 」

 「まぁ、でも...初恋、だよな。その男が 」

 「うん!こんな気持ち初めて...」

 頬を赤く染めボソリと小さな声でそういった宵人。

 そんな宵人に男なんてやめとけ、なんて言えるはずもなく、

 「そっか、じゃあ俺は応援するよ 」
 
 俺には、優しく笑って宵人の肩をポン、と叩くことしかできなかった。


 でも、もしこの時俺が反対していたら、この後に起こる最悪な出来事は怒らなかったのかもしれない。

 反対しておけばよかった。
そう、後悔することになるなんてこの時の俺には想像もつかなかった。

 俺はただ宵人の幸せそうな顔を見ていたいだけだったのに。



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