君のため
3
部屋に入りすぐに触れられた部分を服の裾で強く拭っていると、先ほどまで怒っていた様子の奴も今度は楽しそうに笑っていた。
「...意味わかんねぇ」
叶江の起伏の変化に付いていけずなんだか心が落ち着かない。
「なぁ、スウェットとかないの?」
「えっ、あるけど...って、もしかして泊っていくつもりかよ」
「そのつもりだけど」
マジかよ。ありえねぇ。その2つの言葉がすぐに思い浮かんだ。
まさか泊っていくとは...あれほど帰れ帰れ連呼したのにこいつは何もわかっちゃいない。
「早くしろ。...疲れて眠いんだよ」
急かすように促され、嫌々ながらも棚の中からスウェットの下と少し大きめのラフなTシャツを渡す。
「なんで上はスウェットじゃないわけ」
「なんでって...ないから。俺いつも下はスウェットだけど上はゆるいTシャツ着て寝るから、」
「ふーん、」
自分で聞いてきたくせに俺の答えを聞いた叶江は何ともつまらなさそうに返答する。
そして叶江が着替え出すのを待ってから、俺も早々と着替える。
「お前はいらないだろ、これ」
「は?」
上の服を脱ぎ、近くに置いていたTシャツに手を伸ばした瞬間、あっさりとその服は叶江に取られてしまった。
おかげで俺のその伸ばした手はむなしくも空気を掴む。
「返せ」
「お前は犬らしく裸で寝ろよ」
「なんで俺がそんなこと――」
「いうことが聞けないのか、愛都」
「うるさい...ならいい。他の奴を出すから」
にらんでいても一切返す素振りのない叶江の様子に痺れを切らした俺は
体の向きを叶江からクローゼットへと変える。
「はぁーー、やっぱりお前は駄犬だな」
少し離れた場所にいたはずの叶江の声がすぐ耳元で聞こえ驚いてヒュ、と息を吸った。
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