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君のため



 「ヤリに来たんじゃないのかよ、」

 夜10時を回ったところでついに俺は耐えきれずにそう、叶江に問いた。

 「何、お前そんなヤりたかったの?」

 「なっ!!違う!...お前がわざわざ俺の家に来といて何もしてこないから...」

 「あー...今はそういう気分じゃねぇんだよ。いいだろ別に、お前は俺の犬なんだから。飼い主の俺が何したって」

 「...とくに用事ないなら帰れよ。てか、それなら俺どっか出掛けるからその間に帰れ」

 いつもとどこか様子の違う叶江に少し戸惑うが、それでも叶江の近くにいるのが嫌だ、という気持ちの方が勝る。

 「じゃあ俺行くから。鍵のことは別に気にしなくていいから早く出て行けよな」

 それだけ言うと俺はソファから立ち上がり玄関の方へと歩いて行く。

 「、ぅぐっ!」

 「調子にのってんじゃねぇぞ。犬っころのクセに」

 突然背中に走る強い衝撃。バランスを崩した俺はそのまま床へと倒れる。
 
 倒れたすぐ横には俺のものではない見知らぬ鞄が転がっていた。

 「イライラすんなぁ...なんでお前は飼い主の気分を下げたりするかな。」

 リモコンでテレビの電源を消し立ち上がると俺の方へと歩み寄ってくるあいつ。

 情けないことに俺はその怒りがにじみ出ている声、口調に恐れを感じうつ伏せになったまま動けないでいた。
 
 「おら、立て。お前の部屋に行くから案内しろ」

 「...っ」

 首根っこを掴まれ無理やり立たされると、速く動けと足で軽く脇腹を蹴られる。

 言いなりになるのがすごく嫌で反抗心が生まれるが、もう何度となくこの状況で躾けられてしまった俺の体は
素直に言うことを聞いて、部屋へと向かって歩き出す。

 その後を俺に投げつけた鞄を拾った叶江がついてくる。

 「愛都の部屋は初めてだな。前は来ても、もうひとりの方の部屋だったし」

 部屋の前に付いた時、叶江はそう言い思い出したかのように笑った。

 もう一人の方、それは宵人のことを言っているのだとすぐに分かった。

俺の大切な義弟。
こんな最低な奴に愛想を尽かすこともせずにただひたすらに思い続ける純粋な恋心を持った優しい奴。

 叶江の一言はそんな宵人を馬鹿にしているような口調で、俺は我慢することができずに後ろを向き奴を睨んでやった。

 「なんだよ。文句でもあんのか?」

 「くっ...」

 すると前髪を掴まれ、顔をあげさせられ喉がのけ反る。

 「別に俺は良いんだぜ?宵人と別れても。つーか、俺の友達に頼んで輪姦でもさせようか?」

 「っ!そんなことしたら――」

 「したらなんだよ。殺してやるってか?はっ、無理なこったぁ。...だって宵人は輪姦されても、俺に裏切られても、
きっと俺のことが好きなままだろうからな。そんな俺を宵人の前から消してもいいのか?」
  
 『うぬぼれるな!』そう、怒鳴ってしまいたかった。...しかし叶江の言うことは多分真実だった。

 宵人は叶江に惹かれている。それはひどく深く...。
宵人のことだもし叶江に裏切られたとしても何か理由をつけて許してしまうだろう。

 今の宵人を見ていればそんなことすぐにわかってしまう。

 「わかったら早く中に入れろ。俺の、可愛いワンコ」

 「っやめ、ろ」

 首筋に唇を押しつけられ短いリップ音が響く。

 それが気持ち悪くて、前髪を掴んでいた奴の手が離れると同時に俺は駆け込むように部屋の中へと入っていった。


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あきゅろす。
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