君のため
2※
「 さいあく 」
弥生は顔を歪め、立ち上がると体についた埃を払う。全てにおいて不可抗力の里乃はその一連の動作さえ見てはいけないようなな気がして目を反らした。
自分と近づくのさえ嫌がる弥生のことだ、すぐに立ち去るのかと思ていたが、里乃の体に落ちる影は一向に動く気配を見せなかった。
「この人、誰。...千麻宵人って僕の同室者だけど...」
「えっ...あ、多分、宵人の義兄さんの写真だと思うよ」
顔を上げれば里乃が持っていたはずの生徒手帳を持つ、弥生の姿が視界に写った。先程ぶつかった時に落としてしまっていたのであろう、それを里乃は返してもらおうと手を伸ばすが弥生は写真にくぎ付けで返してはくれなかった。
「こういう人こそ、僕に相応しいと思うんだよね」
「...っ、あの、弥生...」
「いいもの見せてもらった。あんたに初めて感謝したかも」
そういうなり弥生は手に持っていたそれを里乃に返し、鼻歌でもしそうな勢いで里乃のもとを立ち去って行った。
そんな姿に不安を覚えたものの、里乃はどうすることもできず、今あったことをすべて飲み込んで宵人の下へと向かった。
――
―――――
――――――――
弥生との会話があった日から数日後、里乃の周りの環境は一変していた。
― 誰からも恨まれてなどいないはずの宵人がいじめのターゲットにされていたのだ。
明らかに生傷が増えていく宵人。本人に聞いてもいつもはぐらかされ、逆に僕と話しかけていたら君もターゲットにされる、と距離さえ置かれてしまった。
― これはきっと弥生が原因だ。じゃなきゃ宵人がいじめられるなんてありえない。
里乃は友のために、今まで近づこうとさえしなかった弥生の下へと足を向けていた。宵人と仲良くしていたはずの人間は今、誰1人として宵人に近づこうとしなかった。
そして唯一話しかけていた自分でさえ、当の本人の意思で距離を置かれてしまった。今の里乃にできることといえばいじめの根源に訴えかけることのみだった。
罵声を吐かれてもいい、打たれてもいい。里乃はすべてを覚悟して自分から弥生に近づいた。
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