君のため
重荷※羽賀里乃視点
『今日からお前とは家族でもなんでもない赤の他人。もう話しかけてもくるな』
冷たい眼差しでそう吐き捨てていったのは最も近い存在であるはずの双子の兄だった。二卵性双生児だった為、容姿は全く似ておらず、眉目秀麗な兄とは違って自分はごくごく普通の平凡。全てにおいて兄に劣っていた。
両親はそんな兄を溺愛し、双子の弟であるはずの自分を蔑ろにした。兄もそんな両親を見て育ったせいか、兄自身にも忌み嫌われ、家族の中に味方は誰1人としていなかった。
そんな中、両親が離婚。どちらが兄の親権を持つのか散々もめた後、結局兄は父方に、そして歓迎されないまま自分は母方に引き取られ家族はバラバラとなった。
そして母型の姓を名乗り、双子の弟は羽賀里乃となった。
これは中学の頃の話、それからというもの元々兄にも嫌われていた里乃は離婚をきっかけに拍車をかけるように、兄とは他人のように接せられた。そうして地元からは遠い高校に入学。
兄は自分と同じ高校に入学だと知り、入学を拒否していたが、親からの強い意向で1カ月程遅れながらであるが、転校生として入学してきた。しかし容姿や性も違い、ましてや話しかけることを禁じられていた為、2人が双子だということを知る人間は1人もいなかった。
だが里乃はそれに対し何ら不満はなかった。高校は寮制で今までと違い、自分と親しくしてくれる友人たちと生活することができていたから。
そんな時、あることがきっかけで仲良くなった友人がいた。その友人の名は千麻宵人。宵人とは“声が似ている”と周りに言われ、知り合ったのがきっかけだった。
よく笑い、優しい宵人と仲が深まっていくのにそう時間はかからなかった。放課後になれば里乃の部屋に遊びに来ることもあった。
宵人はいつも夜になると家族である義兄に電話をかけていた。楽しそうに、そして嬉しそうに電話で話をする宵人が羨ましかった。
― 自分にはそんな風に話をすることができる家族がいなかったから。
それでも、そのことについて宵人に嫉妬することはなかった。ただただ微笑ましかった。
温かな家族の絆がなくても自分には友人がいる。ともに笑い、共感する存在がいるだけで満足していた。毎日が幸せだった。
しかしある時、宵人は里乃の部屋に生徒手帳を忘れていった。手帳の中には一枚の写真が入っており、里乃はそれに写っていた青年に胸を高鳴らせた。
全体的に色素が薄く、儚い印象を持たせながらも意志の強そうなその目元にすべての感情を絡めとられるように感じた。
「“平成××年○○に家族旅行”...ってことはもしかして噂の義兄さんか」
人のものと分かっていながらも好奇心から写真を手に取った。そして裏にかかれていることからその青年が宵人の義兄であることが容易に想像できた。
宵人もこれを持ち歩くくらいならよほど大事にしているのだろう、と里乃は写真を手帳に再び挟み、届けようと部屋を出た。
「わっ!!いたたたた...っ、」
「ご、ごめん!大丈夫!?...ぁ」
部屋を出た瞬間、扉の前を歩いていた人間とちょうどぶつかってしまった。そして顔を上げた里乃は相手を確認すると同時に全身の血が下がっていくのを感じた。
相手もぶつかった相手が里乃だと気が付くや否や向ける眼差しを鋭くさせる。
「...弥生、」
久しく呼んでいなかった“兄”の名を口にした瞬間、里乃は頬を強く打たれた。
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