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君のため



 
 何も知らないきれいな人間。宵人と同じ声で、愛都に笑いかける。そんな里乃と話していればいつも心が洗われるかのように感じた。

 「これ!愛都に渡したくてさ。て、体調悪いの?なんか元気ない感じするけど...」

 「いや、最近なんか疲れが溜まっててさ。でも、里乃の顔見たら何だか元気が出たよ。それに今、手紙ももらっちゃったしね」

 愛都は今しがた里乃から渡されたレターサイズの封筒を目の前でちらつかせる。
 まさかのもらい物に事実、愛都の心は喜びで溢れていた。自然な笑みが口元に現れる。

 「本当か?それならよかった!それ、えーっと、おススメの本とか書いてるから!気が向いた時にでも見てみて...それじゃあ、俺これから行くところあるから」

 「わざわざありがとう!さっそく明日にでも図書館で探してみるよ。それじゃあまたね」

 そう言い手を振れば、里乃は不自然に立ち尽くした。しかし、すぐにまたいつものように笑うと同じように手を振り返し、そのまま愛都の前を通り過ぎて行ってしまった。

 愛都の手に残る手紙。それは以前、叶江の嫌がらせで里乃の手から渡された封筒とは違いとても胸をときめかせるものだった。愛都はその手紙を大事そうにポケットに入れると自室へと戻っていった。

 そうして部屋に戻った愛都は沙原にいつものように体を求められ、玄関に入ってそのまま行為に及んだ。
 だから疲れ果てた愛都は里乃からの手紙を読むことなくそのまま沙原と共に眠りについた。

 里乃と話したのはほんの5分程、そして沙原と熱く絡み合ったのは数時間で、しかも沙原は寝る間際までずっと視界の中にいた。


 『 愛都 』


 しかし、その日、愛都の夢の中に出てきたのは沙原ではなく里乃であった。


 『 愛都 』


 いつものように笑っていた。いつものように明るい声で名前を呼んでくれた。
 その姿は廊下で会った時と何ら変わらない、元気な姿。

 とてもとても、幸せな夢だった。...――― それなのに。



 ― その翌日、里乃は学校の屋上から飛び降り自殺をした。



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