君のため
6※
自分が幸せになる為に努力をした。自分が幸せになる為に環境を変えた。自分が幸せになる為に他人の幸せを奪った。
何故なら不幸があるから幸せも存在するから。そうやって他人と自分を比べて優劣を実感することで僕は幸せを掴んできた。
僕の行動は何も間違っていない。今までと同じことの繰り返しだった。今回もそう、幸せだけが僕を待っている。
僕は幸せになる為にどうすればいいのかを考えるだけの頭脳も持っている。何も悩むことはない。そう、何も悩むことは...―――
「ね...ねぇ、弥生、これはどういうことなの」
「これって何のこと?どうしたの、固まっちゃって。いつもの晴紀らしくないよ」
ぐいぐいと晴紀の腕を掴み奥へ連れていこうとする沙原の手。それは先程とは違い、力強いものだった。
永妻の足は動かない。その瞳は部屋の奥を見つめるのみ。永妻は約束通り、放課後沙原の部屋を訪れた。だが、部屋の中は予想とはまるで違っていた。
部屋には複数のガラの悪い男子生徒がいた。そしてその中心には見慣れた男が3人裸で横たわっていた。
「なんであいつらが...」
「あいつらって...僕の愛都君を襲おうとしたあの汚い男たちのこと?」
不意に耳元で囁かれる。沙原のその声は冷たく、感情がこもっていないものだった。
「ひっ...!!さ、触るなっ!」
そして次の瞬間には不良のうちの1人が近づき永妻の腕を掴むと無理矢理部屋の奥へと引っ張っていく。
「い、いやだッ、う゛ぐ...気持ち悪...っ、」
体中痣だらけで赤黒い血と白濁に汚れた姿。顔は腫れあがり、原形をとどめていなかった。
3人は意識を失っているのかピクリとも動かなかった。
むっとするような精液と鉄臭いにおいが肺いっぱいに広がり吐きそうになった。
この男たちとはずっと連絡を取り合っていた。そのはずなのに...。
「メールなら俺が3人分やったんだ。本当疲れたよ。お前に媚を売るメールを送り続けたのは。」
そうして聞こえたのは憎らしいあの声。振り向けば思っていた通りすました顔をした千麻愛都がそこにはいた。
「お前にしては甘かったんじゃない?ちゃんとこいつらの声と姿も確認しなきゃ。何でもかんでもうまくいくと思ったら大間違いだよ...―――― 次は、お前が不幸になる番だ」
「...ッ!!ふざけるな!なんであんたにそんなことを言われなきゃいけないんだ!!僕は何も悪くない、自分の幸せのために努力しただけじゃないか!ねぇ、弥生そうだよね!?弥生、弥生、僕は間違っていないよね、僕は君と一緒に居たかったんだ。それが僕の幸せだから――――」
昂る感情。沙原に縋りつこうと伸ばされる腕。
― パンッ、
乾いた音が耳元でなり、頬が熱くなった。それは1秒、また1秒と時間が経つたびにジクジクと痛みに変わっていく。
沙原が天使のように笑んだまま、永妻の頬を打ったのだ。
「僕のためっていうなら、何をすればいいのか、君ならわかるよね。だって、晴紀は“努力家”だもの」
そうして沙原は今打ったばかりの永妻の頬に優しくキスをするとそのまま、愛都と共に永妻のもとを去って行った。
残されたのは、自分が味わうはずのない、嘲笑のみであった。
みんなが僕を笑った。みんなが僕を殴った。みんなが僕の服を脱がした。みんなが僕の体を触った。みんなが僕を×××――――――...
「う゛あ゛あ゛ああぁぁッ!!!」
― 僕は一体どこで選択肢を間違えてしまったのだろうか。
怖い怖い怖い。痛い痛い痛い。汚い汚い汚い...―――― あぁ、気持ちいい。
僕は幸せを掴むためなら何でもする努力家。
― 幸せを見つけるのがとっても上手なんだ。
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