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君のため
犬と人形



 『 死にたい 』

 愛しい声が呟いたその言葉が頭から離れることなくへばりつく。今もなお、耳元で囁かれているかのようにさえ感じる。病院から帰ってきた愛都は、暗い瞳で寮までの道を歩いていく。足音のしない、その姿はまるで死人のようでもあった。


 「愛都君、おかえり!...って、わ...どうしたの?元気がないね」

 部屋につき、出迎える沙原に目を向けることなく、愛都は無反応のまま自室へと向かい、中へとこもる。
 後ろから聞こえた足音や声も、今の愛都の耳には届かず、閉まる扉は非常なものであった。

 ベッドに腰掛けた途端、虚無な瞳からは涙があふれた。
 かけがえのない、大切な存在。宵人が望むことなら何でも叶えてやりたかった。そのためなら自分の身がどうなろうとも構わないとさえ思っていた。

 だが、そんな宵人は“死”を望んだ。

 目を覚ましてから初めて聞いた宵人の声、そして願い。


 ― きっと、嘘だ。あんなの信じない。俺は頭がおかしいのかもしれない。だって、宵人がそんなこと言うはずがないんだ。


 事実、宵人の発言が夢だったのか、その後、宵人が口を開くことはなかった。愛都を見つめていたはずの2つの瞳もいつものように空に向けられていた。
 だが、愛都に襲い掛かるのは言い知れぬ恐怖と不安だった。

 愛都は異常なほどに渇望していた。冷静な考えができない。頭の中は真っ白だった。


 「愛都君...かわいそうに。僕の、愛都君...」

 いつの間に入ってきたのか。気が付けば愛都は沙原に抱きしめられていた。いつもは嫌悪を覚える他人の体温も今は心地よいぬくもりとして感じた。...渇望、していたから。目の目にいる人間が誰かなんて今の愛都には関係なかった。
 それは前、綾西に一度だけ見せた、情緒不安定であった時よりもひどい。

 「落ち着かないんだ。どうしようもなく不安で、どうにかなってしまいそうで...」

 ようやく発した言葉は心の声で。いつもの愛都の姿はどこにもなかった。
 愛都は目の前に立ち、自身を抱きしめる人間に縋るように体を寄せた。そうすれば、流れる涙が相手の服に染みをつくっていく。

 「大丈夫...ぼくが、満たしてあげるよ」

 「...っ、」

 肩を押され、ゆっくりとベッドに倒れるからだ。沙原の顔には笑みが浮かぶ。
 いつになく覇気がない、無抵抗な愛都。沙原はそれをわかっていて大胆な行動に出始めた。

 「ね...いいでしょ、」

 耳元で囁き、首元にキスをする。そうして無言を肯定と受け取り、沙原はベッドに上がると愛都を跨いで、覆い被さった。

 「愛都君...愛都君...っ、」

 肩口に顔をうずめ、深呼吸をするようにしてにおいを嗅ぐ。その間、空いた両手は愛都の制服を乱していった。
 首、頬、額、と、ついばむようなキスをしていく。最後に触れたのは...唇だった。

 「ふっ...ぅ、んんっ、」

 触れた唇の柔らかさを楽しみ、次に僅かに開いた口内へと舌を伸ばす。温かな口腔を犯すように、沙原は舌をめぐらす。

 「こんなに興奮するのは初めてだよ...」

 漸く離した唇。1人の荒くなった息遣い。そこには、皆が口をそろえて言う、天使の姿はどこにもなかった。部屋にいるのは、空虚を見つめ、口の端からだ液を垂らしたままの人形と、発情した犬だけ。
 そうして愛都はズボンと下着を脱がされ、萎えたままの性器を外気に触れさせられる。しかし、それはすぐに濡れた温かい口内に含まれた。

 「ん、ん゛ぁ...ふっ、」

 沙原が上下に口で奉仕する度に水音がなる。陰嚢をいじりながらの刺激は快楽に素直な愛都の体を反応させていく。

 「あっ...はは、大きい...っ、」

 裏筋を擦り、口を窄めてカリを刺激する。そうすれば愛都のものはドクドクと脈打ち、赤黒い雄を主張し始めた。

 「大丈夫...僕、いつ愛都君と出来てもいいように、ちゃんと後ろの穴、解しておいてあるから...、」

 頬を赤く染め、沙原はズボンと下着を脱ぐと性急に自身の穴へと愛都のものをあてがった。そして...―――

 「んっ...ぁ、あ゛あ...ッ、」

 苦痛と快楽が混ざり合った、掠れた声が部屋に響く。
 止まることなく、一気に根本まで埋まった愛都のものを沙原はミチミチと締め付ける。解れていた為に適度な締め付けをするそこは、穴の縁をヒクつかせ、ゆっくりと律動させるたびに伸びては縮んだ。
 穴の皴がなくなるほど開いたそこを満たす昂った性器。
 沙原が動けばそれは快楽の涙を流し、沙原の中を潤わせた。

 「んっ...あ、あっあっ、きもち、ぃ...愛都君のが、僕の中に...ぁ、ああッ、」

 高まる嬌声。上下に動く影。伝い落ちる汗。快楽と蜜のにおい。


 それでも...


 人形である愛都が声を上げることは一度もなかった。



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あきゅろす。
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