君のため
僕は、※永妻 晴紀視点
消えた。消えた。和史が消えた。僕の弥生を狙っていたライバルが減ったのだ。
前までは自分と泰地と和史の3人が弥生を囲っていたのに、今では弥生に愛を囁き続けるのは自分1人。
最近は千麻 愛都は和史の元に行ったり、泰地の元へいったりと、同室者である弥生とはあまり一緒に過ごしていなかった。それによって機嫌が悪く、千麻の部屋に引きこもるようになった弥生を僕は独占していた。
― それなのに、
「愛都君、僕本当に寂しかったよ。だから嬉しいなぁ、最近はちゃんと僕たちの部屋に戻ってきてくれる」
弥生は蕩けたように甘い顔をして、千麻の腕に手を絡める。それはまるで恋人同士のようで、お互いにふれあい、見つめあっている。
弥生の部屋にて。ソファに座る2人は、同じ空間にいる永妻の存在など、無いものとして甘い時間を過ごしていた。
― どうして?
弥生は永妻の方を見ようとはしない。
和史が退学してからというもの、千麻は自分の寮部屋に戻ってくるようになった。たまに泰地の部屋に泊まるようなことがあるが、たいていは自室で弥生と過ごしている。
― いつから?
思えば、千麻が転入してきた時から弥生は変わり始めてしまった。
泰地も和史もライバルではあったが、皆で過ごしたあの時が一番楽しかった。幸せに溢れていた。まさに弥生は僕たちの天使だったのだ。...――― だが、そんな幸福は気味の悪い笑みを浮かべるあの男、千麻によって一つ一つ摘まれていった。
何度弥生に千麻はやめておけと言ったものか。しかし、事情が事情なだけに、千麻と自分たちの間であった全てのことを弥生に言うことはできなかった。
晴紀は恐怖しながらも、知っていた。
― 次はきっと“自分の番”だということを。
千麻は自身の弟である宵人の復讐をするためだけにここまで来たのだ。そんな中、泰地と和史が消えた。
次の矛先はきっと自分に向けられる。
だが、永妻には妙な自信があった。今まで泰地も和史も落ちぶれていく際の共通点があったのだ。
それは、千麻に対して直接的に関わっていたことだ。2人は馬鹿だったのだ。
「僕は絶対に2人のようにはならない」
その言葉はきっと千麻にも弥生にも届いていない。永妻が自分自身に意思を確かめるために呟いた言葉だった。
― 僕は2人よりも頭がいいんだ。千麻には直接近づいてしまってはいけない。認めたくはないが、今の千麻は酷くずる賢い。
きちんと計画を練って、間接的に近づかなければいけない。
そんなことも分からずに2人は千麻に近づき、肉欲に溺れ、身を滅ぼしていったのだ。
今は猫を被って善人面をしているこの憎い顔も、時間の問題だ。
僕は頭がいい。僕なら上手くたちまわれる。この閉鎖的な場所から千麻を追い出すんだ。
千麻の復讐も、残念だがここで終わりにさせてもらう。
僕は、とっても性格が悪いんだ。
俯く顔に、上がる口角。
そうして永妻の頭の中は陰鬱とした思考で埋め尽くされていった。
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