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君のため




 「愛都、一緒に学校に行こう」


 「一緒に?それにしても、綾西君にしては随分早いね」


 「あぁ。俺、愛都と一緒に行きたくていつもより早く起きたんだ」



 綾西は俺のことをジッと見ながらそう続ける。

 そんな綾西を見て、俺は香月達と4人で登校するよりは綾西1人の方がはるかにマシか、と思い直しニコリと笑って一歩前へ足を踏み出す。

 すると先程の沙原のように目を輝かせる綾西。


 「ちょっと待って!どうして泰地がここにいるの!?愛都君を...愛都君を傷つけておいて、」


 そして正論をぶつけて不満を曝け出す沙原。


 ―確かに、何も知らない沙原からすればそうなるよな。


 俺を階段から突き落とした――いや、正しくは俺がわざと落ちただけだが――綾西がこのように俺の目の前に現れれば...沙原も怒りを見せるだろう。


 「ねぇ、愛都君もいやでしょ?」


 俺の腕に縋りつき、上目遣いで見上げてくる沙原。どこか強い口調のそれに俺は笑いが込み上げる。


 「ううん、そんなことないよ。綾西君とは仲直りしたんだ。あれも、事故だったんだ。綾西君は何も悪くない、俺は綾西君に怒ってはいないんだ。
心配してくれてありがとう、沙原君」


 「で、でも...」


 「いつまで愛都にくっついてるんだよ。いい加減離れたら?」


 「えっ、ちょ...泰地っ、?」


 縋りつく沙原を説得している途中で急に今まで黙っていた綾西が近寄り、沙原の肩を掴むと無理に俺から引き剥がした。

 ついこないだまで沙原大好きな綾西がそんなことをするとは俺も思わず、軽く驚く。
 それは沙原も同様だったらしく、まさか自分が乱暴に扱われるとは思わなかったのだろう、油断したのかあっさりと俺から離された。



 「綾西君、乱暴はダメだよ」



 「...早く行こう、愛都」



 「わっ、もう...あっ、ごめん沙原君、俺行くね」



 「ま、愛都君っ、」


 そして綾西は俺の手を引っ張り強く引き寄せるとそのまま歩み始めた。

 抗おうと思えば抗えそうな力だったが好都合だと思い、俺はわざと流れに身を任せる。


 扉が閉まる瞬間、見えた沙原の顔は嫉妬で酷く歪んでいた。



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