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君のため
分厚い壁



 緊張で汗を掻く手の平。高まる鼓動はおさまることなく、俺を責めたてる。
 目の前にある病室の番号はもう何度も確認した。

 医者には絶望的だ、とまで言われた意識の回復。


 嬉しさのあまり、腰の痛みも忘れ早朝、日が昇ると同時に待機させていた家の車に駆け込んだ。
 山奥にある学校からこの病院まで3時間もかかった。その3時間の間、俺は宵人のことで頭がいっぱいだった。

 宵人と話したいことはたくさんあった。だけど真っ先に言うべきことは...

 ―― 一緒にいてあげられなかったことへの謝りの言葉だろう


 深呼吸すると俺は2度扉をノックし、静かに開けた。


 「...っ、よい..と、」


 顔を上げた先にいたのは愛しい宵人の姿。
 上体を上げ、ベッドの上から窓の外を眺めるその姿に俺は息をのんだ。

 一歩、また一歩と宵人に近づいていく。

 痩せてしまった細い体。長い間屋内にいたことによって、肌は一切日焼けをしておらず透き通るように白かった。



 「宵人...宵人...っ、―――ごめん、一緒にいてあげられなくて...っ、」



 そして宵人の目の前に近づいた時、俺は言葉を振り絞って謝った。――しかし、



 「宵人...?」


 宵人は俺が近付いても、話しかけても無反応だった。
 体もピクリとも動かず、まばたきさえもしてはいないのでは、と疑うほどであった。


 「...宵人...許してくれとは、言わない。でも...少しでいい、また前みたいに一緒に話をしたいんだ、」



 前にかがむと、ギュッと手を握り真摯に見つめる。
 こんな俺なんか見たくもないのかもしれない。きっと宵人は俺が宵人のことを見捨てたと思っているのだから。


 だけど...それでも...一言でいい、俺はまた宵人自身の声が聞きたかった。


 だが依然として宵人は何も反応することはなく、ただただ窓の外を見つめている。


 「失礼します。あの、愛都さん少しお話してもいいですか?」


 その時、ノックの音が聞こえ、様子を窺うようにして看護師と医者が1人ずつ入ってきた。



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