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君を想う
偽善


 「2−A、お化け屋敷です!面白いんでよかったら入って見て下さい!」

 ついにやってきた学校祭当日。俺は強制的に客寄せに抜擢され、せっせとクラスのために働いていた。

 「あ、先輩方じゃないっすか。久しぶり」

 「あれ、清水君!ここの客寄せしてるんだぁ」

 そして少し離れたところでお姉さま方と会話をしている啓吾も客寄せに抜擢された。
 ちなみに優也は見た目はいいが、無口で客寄せには使えないので中で受け付けのようなことをしている。

 啓吾の本音を聞いたあの日から、啓吾は毎日学校に来ていた。
 ...何故急に来るようになったかはわからないが。

 毎日登校しているが、もう一緒には登校していなかった。
 那智が学校に着くよりも遅くに啓吾は来ている。

 ― ...まぁ、俺といたってイラつくみたいだし仕方ないのかもしんないけど。

 今も一緒に客寄せをしているのに啓吾はずっと通りかかる知り合いと話しているばかりで余計に那智と啓吾の中に会話は生まれない。

 「あー!!啓吾発見!」

 そんな時、急に飛び出す大声と同時に廊下を走る足音が近づいてきた。

 「おう、のぞ――― ぅぶっ!」

 「なんだ、客寄せしてたのか。探したんだぞ!」

 その発生源は当然のことながら望からのもので。
 望に気がついた啓吾が名前を呼び終わる前に、タックルする勢いでその姿は啓吾に抱きついた。

 「おいおい、一般客もたくさんいるんだから走るな。」

 一応望にそう、注意した啓吾だったがその目は望の行動が嬉しいのか笑んでいた。

 那智はただただその光景をじーっと見ているばかり。あんな啓吾の笑顔を那智はずっと見ていない。
 あんな風に啓吾と接することもしていない。着実に那智よりも啓吾との距離を縮めている望が少し疎ましく思った。

 そしてそんなことを考える自分が嫌になった。

 「よぉ、児玉」

 「湊っ、」

 後ろから掛けられる声に那智は慌てて啓吾たちから視線を外した。そうして向けられるのはすぐ近くにいた湊である。

 「客寄せは順調なのか?てか、順調じゃなきゃおかしいよな」

 「はははっ!んなの、当たり前だろ!」

 湊に話しかけられたというだけでどんよりとした気持ちは全部吹き飛んでしまい、那智の顔からは笑顔が生まれる。

 「...っ、」

 「ん?どうかしたか湊、」

 その瞬間湊は苦笑する。

 「俺さ、お前のその表情好きだわ。前から思ってたけど」

 「...え?」

 そう言われた那智の頬は一気に赤く染まる。あの湊に率直に言われるなんて初めてのことで反応に困ってしまう。目元は落ち着くことなく泳いだ。

 「何、顔赤らめてんだよ」

 「いや、急にお前が変なこと言ってくるから」

 そう言いながら那智は赤く染まった自分の頬を手で隠しながら湊の方を見た。
 そしてその姿に歓喜する。

 ― 笑ってる...

 その時の湊は今まで見たことがないほどの、優しげな表情をしていた。
 
 ― もしかして、俺が笑顔でい続ければ湊はそんな風に俺のことを見てくれるのか...?

 意識している今だからこそわかる湊の些細な表情の変化に那智の心は一喜一憂してしまう。
 悩みと寄り添うようにある淡い気持ち。那智は目の前のそれに気を取られていた。

 だからこの時は忘れていたんだ。


 ――


 ――――


 ――――――


 ― 湊が好きなのはただの“俺”の笑顔ではなくて、“望”に似たこの笑顔だって。

 湊が優しい顔をして言ったことは残酷なことだった。

 それでも湊の前で笑顔でい続けようとする俺は、バカなのかもしれない。



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あきゅろす。
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