君を想う 13 「な、なんで急にそんなこと聞いてくるんだよ」 「いや...ただ最近2人で話してるとことか見ないから、ケンカでもしたのかと思って」 「あー、そっか...」 やはり普段一緒にいるやつらが話しとかしてなかったら客観的にはそう見えるよな... でも今の状況を考えれば、ケンカが理由ならどんなに楽であっただろうか。 今の理由が理由なだけにそんな風に考えてしまう。 「啓吾とは...まぁ、そんな感じかな」 本当の理由を言うわけにもいかない。とりあえず那智は同意して曖昧に誤魔化した。 「ふーん、仲直りしないのか?どうせお前がなんかわがままとか言って清水とケンカになったんだろ」 「...そうだな、俺が悪いのかもしれない」 湊の言葉に、那智の口角は下がる。 啓吾があんなことをしてきた理由は思いつかない。最後に啓吾にあった時もいつも通りに過ごしてて...。 原因が分からない。 いつもはケンカをしたら先に啓吾が折れてきていた。でも今ではそんな気配すら感じられない。 「そんな落ち込むなよ。大丈夫だって、きっと知らぬ間に仲直りしてるだろ」 「うわっ、頭撫でんな!セットが崩れるだろ!!」 湊が気分を紛らわせようとしたのか、頭をガシガシと撫でてきた。まるでそれは大型犬の頭を撫でる手つきそのもの。 那智の頭の中は最早、驚きと嬉しさで真っ白になっていた。 「邪魔、そこどけろ」 「...啓吾、」 そんな時、無機質な冷めた声が那智と湊に掛けられた。声のする方を見れば鋭い眼差しを向ける啓吾と目が合う。 「邪魔っていうけど、ここ通るスペースまだ全然あるじゃん。だから俺と児玉は邪魔じゃないと思うんだけど」 湊は俺たちがいる廊下の両端のスペースを指でさして言った。 しかしその言い方にはどこか棘があり、悪かった雰囲気が増すように淀んでいった。 「んなのは、どーでもいいんだよ。俺が歩いてる道にお前らがいるから邪魔っつてんの」 そんな湊に啓吾も荒々しい言葉で言い返す。 ― ヤバい... 直感でそう思った俺は慌てて啓吾と湊の間に入った。 「ま、まぁまぁ。それじゃあ湊、準備作業頑張ろうぜ!またな!」 「...あぁ」 湊は納得のいかない様子であったが、無理にその背を押し歩かせる。そうして湊の背を見送り後ろを振り返る那智だが、そこにいるであろう人物はすでに跡形もなくいなくなってしまっていた。 「おい、待てよ啓吾!」 慌てて歩いて行ったであろう方へ走って行けば目当ての背中を見つけた。今度は逃しはしない、と那智は急いで追いかけ名前を呼ぶ。そうすれば気怠げにしながらも啓吾は立ち止まりこちらを向いてくれた。 「なんだよ」 「っ、え...と、」 だがしかし、呼び止めたはいいが、いざ本人を前にすれば上手く言葉が現れずどもってしまった。 そんな那智の姿にみかねたのか、啓吾は無言のまま立ち去ろうとした為、思わずその腕を掴んで歩みを止めた。 そして深呼吸をし、啓吾の目を見つめる。 「...こと...なのか...」 「は?何言ってんの、聞こえない」 「...俺のことが、嫌いだったのか...?」 掠れそうになる声を絞りあげて、そう問う。 俺に暴力を振るったこと、無理矢理犯してきたこと、俺を避けるようになったこと... 全てはそれが理由...? 「なぁ、そうなのか?嫌いだから...だからあんなこと俺にしたり、俺を避けるようになったのか」 ― 否定して。俺の言葉を否定して。なぁ、早くこの言葉を否定してくれよ。 しかし啓吾は黙り込み、口を閉ざす。 「答えろよ!俺のことが―――― うぐッ!!」 感情が高ぶって大きくなる自分の声。 だが、最後まで言葉を言いきることなく俺は胸倉を啓吾に掴まれ勢いよく壁に押し付けられた。 「...イラつくんだよ...お前の考えも、行動も。全てが俺をイラつかせる 」 徐々に胸倉を強く掴みあげてくる啓吾。 気道が狭まることによって起こる息苦しさに耐えながら俺は啓吾の言葉を反復していた。 ― 俺が...啓吾をイラつかせる...? 「なんで...なんで前みたいに俺と関わってこようとするんだよ...っ。なぁ、俺がお前にしたこと...忘れたわけじゃないだろう?」 なぜか一瞬切なげに眉を下げる啓吾。那智はその真意を知ることができなかった。 ― だけど...それでも、俺は一つだけ言いきれることがある。俺は...俺はお前と、 「俺は...俺は啓吾とまた親友に戻りたいだけなんだ...っ!」 「...っ、」 「...けい、ご?」 その瞬間、啓吾の顔は歪められる。光の無い瞳は鋭く那智を睨みあげた。 「...それが、煩わしいんだよ!!俺はお前と親友なんかに戻るつもりはねぇ!そんなこと二度と言うな!!」 「...っ、そんな...」 啓吾の言葉は那智の淡い希望を打ち砕いた。それと同時に涙が頬をつたう。 俺はただ啓吾とまた元に戻りたいと思っただけなのに...。どんなに酷いことをされて憎んでも、また親友に戻れるなら水に流す...そう思っていたのに、その考えは啓吾自身によって拒絶された。 「...ごめん、ごめんな、啓吾」 「...っ、那智、俺は...あっ、おい待てよ!!」 手の力が緩んだ隙に那智は啓吾の胸を強く押し、その場を去る為に走り出した。 後ろから聞こえる啓吾の呼び止める声に反応することなく俺はまたいつものように逃げ出すのだ。 嫌なことから目をそらすかのように。 これ以上啓吾の口から那智自身を突き放すような言葉を聞きたくなかった。 「...俺は、ただお前とまた...」 啓吾の言葉は俺自身を否定するような言葉だった。 那智はその言葉に圧迫され、打ち震えるばかりである。 ― なんか最近本当、俺の涙線脆くなったかも。こんなに涙もろくなかったはずなんだけどな。 今まで何事も上手くいっていた生活。それが、最近ではどうだ。 親友に暴力を振るわれ、終いには犯されて。 初めて心のそこから好きだと思えた奴にはもうずっと前から好きな奴がいて...俺が入る隙間なんてないぐらいその想いは強くて。 何一つ上手くいかない。 どうすればいい。俺はどうすればいいんだ....どうすれば、よかったんだ。 いくら考えようとも何も方法は思いつかず、 ただただ悲しさと悔しさが混ざった涙ばかりが頬を流れた。 [*前へ] [戻る] |