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君を想う
2※啓吾視点


 「おはよう啓吾」

 「はよー」

 朝、幼馴染である那智の家の前に行くと、俺のことを待っていたのであろう那智が笑顔で挨拶してきた。

 あぁ、今日の笑顔も癒される。やっぱり朝はこの笑顔がないと始まらない。
 そんなことを考えるのは那智がただの幼馴染ではなく、啓吾にとって大切な存在だからだ。

 もちろん恋愛対象の意味で、だ。

 いつから好きだ、と聞かれれば物心がついた時にはもう好きになっていたとしか言えない。
 那智の全てが好きだった。この気持ちを伝えたかった。

 だけど那智はいたって普通の、ノンケな男でいつも隣には女がいた。
 これが現実だ。俺も那智も男。俺が気持ちを伝えただけ、那智を困らせるだけだ。

 そう思い、ずっとこの気持ちを伝えないまま那智と一緒にいた――― でも、

 「今日さやと放課後街に行くから啓吾は先に帰ってて」

 ― ズキ、

 この会話...言葉...それが聞きたくなかった。聞くたびに胸が締め付けられる想いになった。
 那智はもちろん俺の気持ちなんて知らない。だから今みたいに彼女とのことを話したりもしてくる。

 正直、今の状況は辛かった。
 那智が彼女と別れたと話してきた時俺は、不謹慎だが嬉しくなる。でもすぐに新しい彼女ができてまた落ち込む...そんなことを繰り返している。

 「りょーかい。あんま夜まで遊んで補導されんなよ」

 「大丈夫だって。あーでも、もし補導されちゃったら啓吾助けに来てよ!」

 そういい那智はガバッと俺に抱きついてきた。すぐ近くに那智の顔があり、香水と薄い体臭が鼻を掠める。

 「しょうがないなぁ。俺頑張って助けに行っちゃうわ」

 「へっへっへ、頼りにしてるぜ」

 心臓は煩く高鳴り、顔が熱くなっていくのがわかる。
 那智は俺から離れると投げキッスを送ってきた。

 ― あぁ、襲いたい。

 そんな那智をみて、ついそんなことを考えてしまった。
 でもしょうがない。だって、投げキッスよりも直に唇にキスしてほしいし。

 もんもんと浮かぶピンク思考をなんとか振り払い、落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸をした。


 そんなある日の夕方。部屋で寛いでいると机の上にあった携帯が鳴り響いた。

 手にとって画面を見ればそこには“那智”という文字が映し出されており、啓吾はすぐに電話に出た。

 「もしも――― 」

 『啓吾』

 「...な、なした?声のトーンが低いぞ」

 電話に出ると、いつもよりもテンションが低い様子の那智が俺の名前を呼んできた。
 まさか...ついに補導されたのか。

 『...れた...』

 「ん?何?もう一回言っ――― 」

 『フラれた!』

 急に大声を出され、啓吾の耳はそれをダイレクトに受け止めダメージを負った。
 音の大きさに驚いて反射的に離した携帯を再び耳にあてる。そしてもう一度確かめるようにさっきの那智の言葉を繰り返す。

 「フラれた、のか?」

 『何度も言うな!とにかく今お前の家に向かってるから!それじゃあな!』

 それだけ言うと那智は俺が次の言葉を発するよりも先に電話を切った。

 「フラれた...ね。あの那智が...」

 那智が彼女と別れたのは嬉しい。だけど、別れ方が気に食わない。
 今までは那智から彼女に別れを切り出していた。でも今回は違う...というか、初めてではないだろうか...那智がフラれるのは。

 「確か、さや...だっけ、」

 那智をフッた女。那智のプライドを傷つけた女。啓吾は前にも増して一気にその女が嫌いになった。

 あの女は那智と付き合うことができる権利を放棄したのだ。俺がどんなに望んでも得られない権利...それをあの女は...

 啓吾は怒りのままギリっと歯を食いしばり、拳を握りしめた。

 あれからすぐに那智は啓吾の家に来た。
 那智から漂う負のオーラを感じ、改めて今あいつはご立腹中なんだということを晒しめられる。
 ムスッとした顔の那智は部屋に入るなりベッドの上に勢いよく横になった。
 啓吾はそんな那智をしり目に床に座り、ベッドの背に凭れた。

 「で、フラれた理由は?」

 「他の男に...乗り換えてた...」

 「えっ、何それ、那智と付き合ってたのに他の奴のことが好きになったっていうのかよ」

 那智のフラれた理由に驚き、勢いよく那智の方を向いた。
 俺としては嫌なことだったが、那智は女子の扱い方が上手かった。
 女子ウケの良い性格の持ち主だ。それに顔もいい...だからフラれた理由も予想外のことだった。

 「ち、違う!さやが悪趣味に走っただけだ!」

 妙にそこんとこの自信が大きかった那智は顔を赤くして啓吾の言葉を全否定した。

 ― あぁ、ごめん那智。その姿めっちゃ可愛く見える。

 「そ、そう...てか、その相手の男は一体誰なんだよ」

 「相手は...」

 そう言ったきり、那智は黙ってしまった。
 多分、口に出してその男に負けたということを言うのが嫌なのだろう。
頭の中で考えるだけでなく、言葉として出せばそのことがずっしりと心にくるから。

 「...あーっ、もう!...湊、琉依。それが相手の名前だ」

 「...っ」

 俺はその名前を聞いて鳥肌がたった。
湊 琉依...俺はそいつを知っている。だけどそれはただ単に同じ学年だから、などという理由では、ない。那智に言うことはないであろう深い理由があった。

 「へぇ...湊、な。そいつぁ、悪趣味なこった」

 俺は会えてリアクションを薄くした。あまりこいつの話はしたくない。

 「...く...んだ」

 「ん?」

 「ムカつくんだ!そいつのことが!」

 那智はギリっと唇を噛んでいた。

 「那智...」

 俺は静かに那智の隣へと座った。

 「湊のことは...考えるな。考えたって気分が悪くなるだけだし」

 「...」

 俺がそう言うと那智は唇を噛むのをやっと止めてくれた。切れて傷がついたりしたら嫌だったのでそのことについてはとりあえずホッとする。

 「だ――っ!もう、湊のこと考えないわ!今日はお前ん家に泊ってストレス発散する」

 そのまま那智はベッドに横になり、顔だけをこちらに向けてきた。
 無言で見てくるその視線になんだか気恥ずかしくなり目線を下げてコクンと頷いた。

 那智が泊ることについては何ら問題はない。むしろ泊っていってほしいぐらいだし。

 「じゃあ、布団持ってくるわ」

 「おーう。あ、でも今日は俺がベッドな。啓吾は布団」

 「りょうかい....って、え!な、那智がベッドなの」

 那智が...俺の、俺がいつも使っているベッドで...。
 何だかんだ言って昼寝ぐらいだったら俺のベッドを那智が使うことはあったが、本格的にベッドの中に入って一晩眠るということをしたことはなかった。

 「だってよ、いつも思ってたんだけどなんかいい匂いするんだよな。お前のベッド。だからぐっすり眠れるんだ」

 「い、いい匂い...」

 クンクンと匂いをかむ那智に啓吾は素で固まった。それはもう、色々な意味で。

 「そうそう。いつもここで昼寝とかしたら本当ぐっすりね」

 「わ、分かった。じゃあ今度こそ俺は布団取りに行ってくるから、」

 「いってらっしゃーい」

 徐々に熱くなっていく顔はきっと赤くなっているはずだ。そんな顔を見せないよう俺はすぐに部屋を後にした。

 その日の夜遅く、那智が眠りについてから変に興奮気味になってしまった俺が、色々と妄想をしてしまいトイレに駆け込んだのは言うまでもない。




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あきゅろす。
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