君を想う
12
それから歩いて数分後、2人はゲーセンの目の前に着いた。
「俺のテクニックさばき見せてやんよ!」
「はいはい」
そんなことを話しながら那智は湊よりも先に自動ドアの向こうへと一歩足を踏み出した。
「っ!あいつ...!」
「...っ?」
それと同時にすぐ後ろにいた湊が何か呟き、那智は何事かと振り向く。
しかし状況がつかめない一瞬のうちに湊は踵を返してどこかへと走り出してしまった。
「え?は!?み、湊っ!?」
意味がわからなかったが、とりあえず湊の後を追うため急いで自動ドアを抜けて外に出た。
「どこに行ったんだ...」
すぐに外に出たつもりたっだが湊の姿はどこにもなかった。
外には知らない人で溢れていてあたりをキョロキョロと窺うが湊は見つからない。
「急に飛び出しやがって...」
本当に急なことだった。
湊はどこか焦っている感じだった。...あの湊が、だ。
前にも一度湊が焦っていたときがあった...それは那智が湊の机の引き出しを開けようとした時。
しかし、今回は前以上だ。目を見開き、眉を下げ歯を食いしばり...
湊があんなに焦るなんて...一体一瞬の間に何があったというのだろうか。湊の瞳には何が写っていたのだろう。
そんなことを考えながら湊の行方を捜し近くを歩きまわった。
「うおっ、」
「じゃ、邪魔だっ、どけどけ!」
湊を探してしばらく。ふらふらと歩いていると店と店の間にある脇道から急に人が走ってきて、那智は運悪くその男2人と思い切りぶつかってしまった。
その衝撃に軽くよろめき、ぶつかってきた男たちを見ようと顔を上げるがすでにそこに男たちの姿はなかった。
「なんだよ...皆して俺の前からすぐに消えやがって」
だが、先程の男たちの様子はどこかおかしかった。
なんというか...“何か”に恐怖し、怯えているように見えた。
まさに、今その対象から逃げてきたかのような...
「何があったんだ...?」
野次馬根性というか好奇心が勝り、一旦湊を探すのを中断し男たちが出てきた脇道へと足を踏み入れていく。
道は大人2人がギリギリ横に並べるくらいの幅で、そこまで狭くもなかった。
歩いて行くと曲がり道が現れた。そして同時に何やら人の声が聞こえた那智は、足を止めて壁からこっそりと覗き見る。
「っ!!」
そこには今しがた探していた人物、湊がいた...――― ある1人の存在を抱き寄せ、キスしている状態で。
那智はすぐに見るのを止め壁に凭れかかるとそのままズルズルとしゃがみ込んだ。
― 何だったんだ...今の光景は。
湊が誰かを...壊れモノを扱うように優しく抱き寄せて、キスをしていて...
あんな湊、初めて見た。なんだか、見てはいけないような気がした。
何だろう...胸が痛い。
なんでこんなに苦しいんだ...
なんで...涙が出るんだ。
気づけば目からは涙がこぼれていた。
「ははっ、何泣いてんだ俺...意味わかんないし」
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
だけどなんとなく理由は分かっていた。
でも、その理由を認めたくなくて那智は無かったことにするかのように涙を袖で拭った。
そして立ち上がり、道を抜けて人通りの多い歩道へと戻る。
「はぁー、」
気持ちが落ち着かない。ごちゃごちゃとしていて、何かきっかけがあればすぐにでも泣き出しそうになってしまう。
― 少し落ち着こう
ゆっくりと歩道にあるガードレールに腰を下ろす。
さっきの...湊と一緒にいた人物。実はその姿に見覚えがあった。
その人物はつい先ほど湊の家で見た...写真に写っていた男だった。
そう考えると、色々と思いつくことがあった。
棚に入っている写真を隠す時の態度にゲーセンでの動揺、そして路地裏でのこと...
― ズキリと、胸が痛む。
湊が感情を素直に出す時、それはすべてあの男が関係していた。
多分、湊が時折那智に見せた切なげな表情も写真の男と見比べて感じた感情が表に出たものなのだろう。
−“あいつならこんなことしないのに”ってか。
そんなにその男は湊にとって大切な存在なのか?
第一男同士なのになんでキスなんかしてんだよ、おかしいだろ...
だが、そう思うものの那智の中の根本的な何かがそれを否定する。
― 相手が男でも女でも俺は...
「意味...わかんねぇ...っ」
自分は何を考えているんだ。そもそも自分とは別に関係ないじゃないか。
湊が誰とイチャつこうが関係、ない。
「あ...」
その時、那智が出てきた脇道から2人が出てきた。
「みな...と、」
しかし、湊は那智の存在に気がつくこともなくそのままあの男とどこかへと去って行ってしまった。
那智のことなど頭の中に無いような雰囲気で、さも初めからあの男と2人で一緒にいたかのように。
「うっ...」
また涙が出た。
悲しさ、悔しさ、怒り...全てが混ざり合った涙だった。
止まらない...止めたいのに止まらない...
「なんだよ...なんなんだよ、」
なんでこんな辛いんだ...
涙を流しながら下を向き、その感情に耐えるように歯を食いしばった。
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