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君を想う
9


 それにしても湊は本当にここで生活しているのだろうか。
 見回して思うのだが、あまりこの部屋からは生活感が感じられなかった。

 ― まぁ、そんなことを俺が気にしたところでどうしようもないが。

 エロ本とか、DVD とかなんか男子高生らしいものはないのだろうか。
 たとえば、ベットの下とか机の引き出しとかに...

 そう、ふと思った那智はまずベットの下を覗き見る。

 「うーん...ここには、ないか」

 「...何してんの」

 するとやっと笑い終わった様子の湊は、那智の行動をみて今度は不思議そうに首を傾けた。

 「エロ本とか探してるの」

 「...エロ本?そんなの無いけど」

 「...は?んなわけねぇだろ。お前、健全な男子高生がエロ本を持っていないなんてありえないから!俺だって持ってるし。あぁ、そうかもしかして恥ずかしがってんのかよ」

 「だから本当に持ってねぇよ?嘘じゃないし」

 そう言う湊の顔は真顔で嘘をついているような表情には見えない...しかし、

 「でもとりあえず確認だけーー」

 そして流れ作業のように今度は棚の引き出しの扉に指をかけ開けようとした。

 「っ!ちょっ、そこは無理!」

 そのまま指に力を入れて数センチ引いたところで、焦った湊の声が聞こえた。
 それと同時に後ろから骨ばった男らしい手が現れ、引き出しの扉は閉められる。

 「っ!み、みな...と?」

 ― ちょ、やばい...これは非常にヤバいのでは、

 那智はその時の体勢に、つい赤面してしまった。
なぜなら四つん這いになった那智に覆いかぶさるようにして、湊がピタリとくっついていたから。

 まるでこれじゃあ...っ、

 湊の顔は那智の顔のすぐ横にある。

 心臓は今まで以上に高鳴り、うるさいぐらいだった。

 耳元にある湊の息遣いが聞こえる。湊と重なっている背中から湊の体温が感じる...
 那智の頭の中はパニックになっていた。

 「引き出しの中は閲覧禁止で」

 「...え、あ...っ」

 そうして湊はそれだけ言うとすぐに那智から離れた。
 ドキドキは依然として鳴りやまない。

 ...てか、俺は一体何考えてんだよ!相手は湊だし、何よりも同じ男だ。

 ありえないありえない!きっとここ最近全然女の子と絡んでないから欲求不満になってるんだ。
 だから変に反応して心臓がうるさくて...きっとそうだ。

 大丈夫、俺はちゃんと女の子が好きなんだから。

 「て、あ...こんな時間だし俺帰るわっ!それじゃ!」

 とは思ったものの気不味さは変わらず、すぐさま那智は自分の鞄を持つとそのまま部屋を出た。

 玄関でローファーを履いていれば階段を下りてきている湊の姿が視界に入る。那智は一言お邪魔しましたとだけ言うと玄関の扉に手を掛けた。

 「また明日も、ここでな」

 その時、後ろからそう声を掛けられ何故だか嬉しくなった。
 そうして“あぁ”と短く返事をすると赤くなった顔を見られないよう後ろを振り向くことなく湊家を出た。

 外を出ると空は暗くなっており、涼しげな風が柔らかく頬に当たる。

 「今日の俺...本当どうかしてる」

 熱くなった頬は依然冷めることなく火照り続けている。

 ― そういえば、あの引き出しに入ってたのって...

 那智は家への夜道を歩きながら、あの時の机の引き出しに入っていたものについて思い出していた。

 僅かな隙間でなおかつ一瞬の間だったため、中に何が入っていたかはあまり分からなかったが...多分あれは、

 「写真...だよな」

 何が写っているかは全然不明だったけど。

 まぁ、エロ本は入ってなかったな。

 そして那智はこんな身近にエロ本を持っていない男子高生がいたんだな、と感心していた。



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あきゅろす。
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