君を想う
7
あれから1週間が経った。
「なぁ、今日も呼んだのか?」
朝、通学路を啓吾と一緒に歩いていると、ふとそんなことを言われた。
「ん?呼んだけど...」
「...毎日門の前で待たせて、いいのかよ」
「いいんだよ、別に...あいつは俺のパシリだし、」
那智は前を向きながらぶっきら棒にそう言った。
確かに那智はあの日の翌日から毎日湊を門の前で待たせていた。
なんでかは...よくわからない。
だがなぜだか、胸がソワソワしてしまって気がついたら毎日メールで湊のことを呼んでいた。
湊のことだからメールでわざわざ呼ばなくても休み時間などには来てくれる。
頭でそうはわかっていても違う可能性を考えてしまう...。
もしかしたら湊は来ないかもしれない...そう思うと無意識のうちに指は携帯のボタンをカチカチと押していた。
「でも...」
だが、啓吾は不満があるのか眉を下げ、ムスッとした表情でこちらを見てきていた。変に問い詰められる前に話題を変えなければ、と那智は頭をフル回転させる。
「そ、そういえばさ、最近登下校とか一緒だけど部活はいいのか?」
「...部活は休みだよ。前期のテストの1週間前にもう入ってるからな」
「う゛っ!テスト!!」
那智はその存在をバッチリ忘れていた。
「え、何、もしかして忘れてたの!?嘘、ありえな...」
那智の暗い顔に反して啓吾はキラキラとした瞳でこちらを見てきた。
「なんだその目は!今の空気にそぐわない目をしてるぞ」
「だってさ、だってさ」
段々と啓吾の瞳は輝きを増し、口元は上がってきた。
そしてにんまりとした表情でこちらを見てくる。
...性格悪そうな顔だこと。
「お前もついに俺と同等...いや、それ以下になるのかと思って〜」
「そ、それは...」
啓吾のその言葉は今回ばかりは冗談として受け止めることができなかった。
それほどに那智は今回全くと言っていいほどテスト勉強を行っていなかった。
授業の時間も休み時間も、なぜだか頭の中は湊のことで埋め尽くされていた。
「もしそうなったら、那智は俺を“バカ”だという権限は剥奪なんだからな〜!」
「うぅ、」
那智は何も言えなかった。今まで勉強面では散々啓吾のことをバカにしてきていた。
自分の点数もそこまでいいわけではないが、全て平均点は採っていた。
スポーツでは啓吾には全くと言っていいほど勝てない...だから唯一勝てる勉強で啓吾に威張っていたのだ。
だが今回は色々なこと...主に湊のことだが...そっちに気ばかりがいってしまっていて、テストのことなんか頭に入っていなかった。
高校のテスト範囲は長い...中学ならまだ1週間前でもギリギリいけたが、高校だと俺の学力ではそんなこと通用しない...まじめにヤバい。
すると急に啓吾は那智の前に立ち止まり肩をガシリと掴んできた。
「安心しろ!俺はバカにはしない...憐みの目では見るがな!」
「――――っ!」
そして親指をビッとたて、爽やかな笑顔でこう告げてきた。
「一緒に補習受けようぜ!」
那智はただただガックリとうな垂れることしかできなかった。
「で、俺に勉強を教えろ、と。そういうことか?」
「その通り!」
その日の放課後、色々と理由をつけて啓吾を帰らせた那智は真っ先に教室で待たせていた湊の元へと向かい、今日の朝啓吾と話していたことを話した。
こないだ湊にやらせた課題は授業で回答するとなんと全問正解だった。
その事実もあり、悔しいことだが那智は湊に頼ることにした。
「まぁ、別にいいけど」
「うはぁ、よかったー!...あ、じゃあどこで勉強する?」
「俺は別にどこでも」
「えー、それじゃあ...湊の、家は?」
正直一度行ってみたいと思っていた。いい機会だし、とそう遠慮がちに提案する。
「俺の家?あー...うん、いいよ」
「じゃ、じゃあ湊の家に決定な!」
湊の言葉に心拍数は上がる。
なぜだか自然とニヤけてしまう口元をなんとか抑える。
そんな那智の苦労を知ることもなく湊は廊下に出て前を歩きだした。
――
――――
――――――
「おじゃましまーす」
「どうぞ」
那智が玄関に入り一言言うと湊はそれに軽く返答し“部屋はこっち”と言って階段を上っていった。
すぐに那智も湊の背中を追って歩き出す。その間も心臓はドキドキと高鳴っていた。
ここが湊の家...
家の中はきれいで、こまめに掃除をされているようだった。
「俺の部屋はここ」
「...あ、う、うん」
湊は2階にあるいくつかのドアのうちの1つの前に立ち、ガチャリと開け中に入った。
「てきとうに荷物とか置いて」
「あぁ。てか、お前こそ意外に部屋がきれいでびっくりした」
部屋の中はとてもきれいでモノトーンな、シンプルな家具がいくつか置いてあった。
「あぁ、よく女子とか連れてくるから一応な」
湊は何とも性格の悪そうな笑みをしながらそう言った。
その理由は那智が湊に前、言った言葉と同じもの。
「...嫌味かよ。それとも何、自慢?」
ムスッとして答えると湊はそんな那智を見てクックと笑ってきた。
「すぐ拗ねてガキみたいだな」
「ガキ!?は?俺はガキなんかじゃ―――うわっ」
言い返そうとした瞬間、急に頭をガシガシとされ上擦った声が出た。
「ここに女を連れてきたことなんて一度もねぇよ」
「...別に、そんなことどうでもいい...て、何だよその頭の上にある手は!!」
湊に言われた言葉を聞いてなんだか嬉しくなる。そして頭に手が触れ、やけにもどかしい気持ちになった。
「いや、なんか触り心地が予想以上に良くて...あと、低いなって思って」
「なっ!うるさい!お前が高すぎるんだ!だぁっ、もう手離せ!」
低いって言ったって一応俺は平均身長以上はある。背は高い方の分類...こいつは...高すぎなんだ。
「はいはい」
そして湊の手は俺の頭から離れていった。
離せとは言ったが、それがどうにも惜しく感じてしまった。
「...って、俺は一体何考えてんだよ...っ」
「何が?」
「な、なんでもない。それよりも勉強だ勉強!」
誤魔化すように無理に話を変え、本題へと向ける。
そして置いてある机の前に腰を下ろした。
不思議そうな顔をした湊だったが、それから特にそのことに触れることもなく那智のすぐ横に腰を下ろした。
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