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君を想う



 「俺は―――― 」

 「ただいまー!あー、お腹空いた!!」

 教室に戻ってきた望の声で啓吾の言葉は遮られ、そのまま口は閉じてしまう。
 一体啓吾は何を言うとしたのだろうか、と興味は湧きたつが改めて聞くこともできず同じく那智も口を閉ざした。

 そんな中でも望のすぐ後ろには湊がおり、相変わらず冷たい瞳でこちらを見てきていた。
 不穏な湊に気がつくこともなく望は啓吾の後ろの空き机に座りながら、興味あり気に啓吾の瞳を見つめる。

 「なぁなぁ、今何の話してたんだ?」

 「あー、今週末にある祭りの話」

 啓吾は望の問いに答え、望の隣の席に腰を下ろした湊を睨んだ。そんな啓吾を睨む湊だが、すぐに素知らぬ顔をして買ってきたものに手をつけ始めた。

 「祭り?まじでか!俺祭りとかめっちゃ好き!あ、なら啓吾一緒に行かない?」

 その瞬間、優也の顔は僅かにだが嫌そうに歪んだ。那智は何も言えずにただただ黙り込む。

 「いいよ。でも皆で行かね?」

 「え...ぁ、うん、そうだな!皆で行ったら楽しいもんな」

 明らかにテンションが下がった様子の望に那智の心は焦りで満たされていた。

 「俺はバイトあるから行かない」

 そんな中、優也は先程言っていた理由で誘いを断る。

 「俺も行かないわ」

 「えー、琉依も行かないのか?」

 そして続く湊の断り...

 ― あー、この流れ。俺も断った方がいいよな...。望は啓吾と2人で行きたいんだし。ここで俺が行くって言ったら湊が...

 「んー、俺も...―――」

 「お前はさっき特に予定ないって言ってたから行けるよな?」

 「...はい。」

 すぐさま断りの一言を言おうとしたが、那智の言葉を最後まで聞かずに啓吾は威圧感を与えてきた。それに竦んでしまった那智はぎくりとしながらも小さな声で了承する。

 ― あ゛〜ッ、顔上げられない。上げたら俺のことを睨んでる湊と目が合うんだ。きっと、そう。俺のこと見てくれてるのは嬉しいけど目がなぁ...

 那智は居た堪れない思いに駆られ顔を上げないように視線を下ろしてガツガツと昼飯を食べることに集中した。

 「じゃあ、俺と啓吾と那智の3人で祭りに行こうぜ!そうと決まれば時間とか待ち合わせ場所とか決めよう!」

 「おい望。食べながら喋るな、飛ぶ。」

 焼きそばパンを口に頬張りながら喋る望に対して啓吾はクスクスと笑い、注意する。
 2人の醸し出す穏やかな雰囲気になんとなく胸がチクリとした。

 「那智、呼ばれてる」

 「え?」

 ちょうど最後の一口を食べ終わった時、優也が後ろを指差しながらそう言ってきた。
 見ると最近やけにメールをしてくる女の子が教室の入り口に立っていた。

 「あ...悪い、ちょっと俺、行ってくるわ」

 すぐに立ち上がり弁当のごみをゴミ箱に捨ててその子の元に向かう。

 そんな那智を見て「女の子の呼び出しだ」と嬉しそうに笑んでいる望の声の中、ムスッとした表情で見ている啓吾の視線も、ただ無表情で見つめている湊の視線も俺は気がつくことはなかった。


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