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君を想う
慫慂


 「暑い――っ!!」

 季節も本格的な夏。教室の窓を開けてもなお入ってくるのは生ぬるい風とせわしなく鳴き続けている蝉の声。

 「もうお前のその言葉は聞き飽きた」

 隣に座っている優也は気だるげに言葉を紡ぐ。さすがの優也もこの暑さには負けるか、と那智は苦笑した。

 「扇風機と風鈴持参してこようかな」

 半分本気でそう思った。
 そんなことを呟きながらうちわで顔を扇ぐ。風は温いが無いよりはマシだった。
 ついでにYシャツのボタンも2、3開け、腕を捲り、制服のズボンもひざ下まで捲りあげる。
 そうすれば幾分かは熱がこもらなくなり、一息つくことができた。

 だが、こんな格好ができるようになったのもつい最近のこと。それまでは体中にある痣が中々消えず、上下捲ることもボタンを開けることもできず、那智は暑さに堪えていた。

 「てか、啓吾たち戻ってくるの遅いな」

 「んー...そうだな」

 優也の言葉にあたりさわりのない返答をする。
 今は昼休み。啓吾と望、湊は昼飯を買いに購買へと行った。
 後夜祭のあったあの日から数日。学校へ行ったが那智が危惧していたことは特に起こらなかった。
 望は痣のことなど一切聞いてこなかった。啓吾ともいつも通り一言二言の会話しかしなかった。当たり前のことだが、優也もいつも通りのクールビューティで...

 一番気にしていた湊も、普通だった。しいて言うならば、会話がなくなったくらいだ。あとは、軽く睨まれるようになったか。

 「おかえり、啓吾」

 そんなことを思い出していればいつのまにか惣菜パンなど、たくさんの食べ物をもった啓吾が1人教室に戻ってきた。
 その後ろには一緒に行ったはずの望と湊の姿がなかったため、不思議に思い啓吾に尋ねると「連れション中」と興味無さ気に言われる。

 そして自分の席...那智の後ろの席に座る啓吾をさり気なく横目で見た。

 ― てことは、この大量の食べ物もその2人の分か。啓吾、パシられたなぁ。

 「なら先に食ってよーか」

 俺は鞄から朝コンビニで買った昼飯を出し、食べ始めた。同時に啓吾と優也も昼飯に手をつける。

 「啓吾、パン買ったんだ」

 横を見ればいつもはおにぎりや弁当などご飯系を食べている啓吾がパンを食べていたのでめずらし気にそう口にする。

 「朝食い過ぎてあんま腹減ってなかった」

 「ふーん。なるほど」

 特に意味もない会話なのですぐに終わってしまう。だけどこんな何気ない会話も最近になってするようになった。それがちょっと嬉しい、なんて思ってしまう。

 「そう言えば今週末に祭りあるよな」

 「那智は誰かと行くのか、」

 那智の“祭り”発言に啓吾は興味を示したのか、ジッとこちらを見つめてくる。思わずその視線にドギマギとしてしまった。

 「...特に予定はないかなー。啓吾は誰かと行くのか?」

 「俺も特に予定は...。優也は行くのか?」

 「俺?俺はその日バイト入ってるから行かない」

 残念そうにすることもなく答える優也。その顔に浮かぶのは祭りには興味なさげな表情。
 まぁ、確かにあの優也が満面の笑みを浮かべて騒いでたらドン引きものだが。

 「那智と啓吾、彼女いない同士寂しく2人で祭りに行けば?」

 「「 はっ!? 」」

 優也の言葉に対して、那智と啓吾は同時に声を上げる。
 そして那智はこの場にいない2人の存在を探すかのようにさり気なくあたりを見回した。

 「那智は啓吾と行くの嫌?」

 「え、お、俺は...」

 別に嫌なんかではなかった。ただ、望の存在がどこか引っかかった。
 やはり、自分と啓吾の2人で行くのは、ダメな気がした。しかしそんなことを言えるはずもなく那智はハッキリと答えずに口ごもる。

 他に言葉が思いつかない。

 ― そういえば、啓吾は嫌ではないのか。

 「じゃあ啓吾はどうなの、」

 すると那智の状態を見て呆れたのか、ため息をした優也は今度は啓吾に話を吹っ掛けた。




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