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それは幸福
7


 「私...わたし、本当に藤堂さんが大好きで、憧れてて...今日みたいにご一緒できる日が来るなんて...ゆめ、みたいで」

 「春海さん大丈夫、具合は悪くない?」

 飲み始めて約1時間後。そこには酔いが周り完全に出来上がった春海がいた。やや緊張気味な様子で、誤魔化すようにお酒を飲んでいた春海を横目に大丈夫だろうかと思っていた矢先のことであった。
 春臣に力なくしなだれ掛かる春海の呂律は既に回らなくなっており、先程から同じことを何度も繰り返し言っていた。

 セクハラに見えないよう、かつ、嫌味がないように接するのだがわざとか偶然か春臣の腕には豊満な胸が押しつけられていた。
 触れないように、と僅かに腕の位置を変えるもそれを追うかのようにして距離を詰められ胸を当てられる。

 − 普段ならこんなことしないだろうに。よっぽど酒が効いたか...これで明日二日酔いとかで演技の調子が悪かったら許さねぇぞ。

 春臣の頭の中を占めるのは春海のお色気でもなくやはり、映画撮影のことだけだった。

 その横で千晶はさらに不機嫌になった様子でお酒を飲んでいた。
 見れば最初とは違い、ハイボールだろうか、度数が高めのものを飲んでいる。
 お前は主人公なんだから勘弁してくれよと思っていれば、突然千晶は立ち上がり春臣を見下ろした。

 「帰る。」

 それだけ言うと自分の鞄を持ち、千晶は部屋の入り口まで歩いて行く。

 「...なんで来ないの」

 若手3人同様、ポカンとその様子を見ていれば千晶は振り返りじと目で春臣を見つめる。

 今の状況は面倒だと思っていただけに帰れるのは助かるが、些か自分勝手過ぎる千晶にため息が出そうになった。

 「今行くから、ちょっと待ってて。春海さん、それに皆急で悪いんだけど俺も帰るね。誰か、替わりに春海さんのこと支えてもらってもいいかな」

 「藤堂さん、また...また一緒に飲んでくださいっ、ご飯にも連れてって、くだしゃ...ぃ」

 半分眠った様子の春海を渡し、春臣も帰り支度をする。これでみんなで楽しんで、と幾らかお金を渡して千晶の後を追った。

 「天宮君だとああいうのも許せちゃうよね。女王様って感じであれはあれであり」

 部屋を出る間際、後ろから聞こえたのはそんな話し声。
 無愛想で自分勝手で思ったことをそのまま口にする千晶。自分とは正反対で自由なのに...それなのに、何故か好感を持たれる千晶に改めて苛立ちが募る瞬間だった。

 外に出れば、来た時と同様すでにタクシーに乗り込む千晶を見つけて春臣も走って乗り込んだ。すでに行き先は告げられていたのか春臣が乗ればすぐにタクシーは発進した。

 「久し振りに走ったけど息がすぐ上がっちゃうな。まだまだ20代で若いつもりだけど体は変わってきてるのかな」

 「...俺は今、初めて出会った頃の春臣と同じ年齢だな。あの頃はあんたのこと大人だと思ってたけど...実際になってみたら大したことないな」

 どうせ、無視か相槌だけで終わると思っていた会話は意外にも続けられる。いつになく千晶が饒舌なのはお酒を飲んだからだろうか。

 「体が大きくなっただけで中身は何も変わらない。あの頃のまま...」

 「...あれ、天宮君?」

 頬に当たる柔らかな髪の感触。肩にずしりとくる重み。
 話していたかと思えば千晶はそのまま眠ってしまい春臣の肩に凭れてきた。耳元ですうすうと静かな寝息が聞こえる。

 − こいつも大分酔ってるな。

 その寝顔は穏やかで、どこか子供くさかった。その調子で自分のことも解放してくれないだろうかと思ったが、それも遠い夢のような話だと言うのはわかっていた。

 とりあえず動画の件もあるし、次の日の撮影のことも思えばそのまま放置するわけにもいかない。それに加え、千晶の部屋の場所もわからない中、今の状況の千晶を京太に見せようものならあの過保護な父親に責められるのは目に見えていた。
 しょうがない、と目的地に着いた春臣は寝ぼける千晶に肩を貸して自身の部屋へと連れて帰った。



 「ん...んぅ、」

 浅い眠りに入りつつあった、春臣の意識を刺激する下半身の疼き。
 寝惚け眼で周囲を見渡せば自分に覆い被さる黒い影があった。

 「ぁっ...ち、ちあ...き?」

 くちゅくちゅとなる水音。薄暗い中、ぼやけて見える千晶らしき人物は息を荒くして激しく手を上下に動かしていた。

 「はるおみ...っ」

 苦しそうに、切なげな声で千晶は自身の名を呼ぶ。
 徐々に頭が冴え思い出す記憶。千晶を自身の部屋に連れ帰り、半分眠ったままのその男に寝支度をさせてそれで...。
 男2人でセミダブルのベッドでは、やや狭いなと思いつつ眠りについたのが最後の記憶だ。
 そのはずなのに、今自分は隣で眠っていたはずの男に覆い被さられ...――― 性器を重ねて扱かれていた。

 「えっ、ちょ...やめっ」

 俗に言う、兜合わせというやつ。違った意味で背筋がぞくりとした春臣は千晶の腕を掴もうと手を伸ばした。

 「邪魔...するなっ」

 しかしそれよりも早く千晶の圧がかかる。有無を言わせぬその言葉に春臣は苦虫を噛む思いをした。

 「ぅあ...あっ、あ」

 覚醒するのに比例して強くなる快感。仕事で忙しくしていた春臣にとって、他人からの刺激は久し振りなことで否が応でも反応してしまう。
 なぜこんなことをされているのか、これも自身を苦しめるための嫌がらせなのだろうかと考える。
 春臣の両手は握り拳をつくり、爪が食い込むほど強く力が込められた。

 「春臣、イキそうでしょ...」

 気がつけば足の指先に力が入り、もうすぐ達してしまうというところで掛けられる声。
それに対して何も答えない春臣であったが、上気した頬を見て分かるようにすでにそこは限界の域であった。

 「でも、ダメ」

 「ひぐっ!」

 途端千晶は離れたかと思えば春臣の性器だけを強く握り込まれる。ドクドクと脈打つそこに突如として訪れる痛み。

 「はははっ、ちょっと萎えちゃったね」

 先走りを零しつつ僅かに萎えた春臣の性器を見て千晶は声を出して笑い、次に意地の悪い顔をしてにんまりと笑った。

 「可哀想だから俺が慰めてあげるよ」

 「ひっ、や、やめっ...いい、やらなくていい、離せっ」

 屈んで性器に顔を近づける千晶を見て何をされるかわかった春臣は上体を起こして腰を引こうとするがひと睨みされただけで体は硬直してしまう。
 千晶の命令は絶対だ。言うことを聞かなければ自分の未来は失われる。
 もうどうにでもなれ、と再び上体を倒した春臣は腕で顔を隠し目蓋を強く瞑った。

 「...はっ、あ...あ、くぅっ」

 性器を包み込む温かで柔らかな粘膜。その根本は強く握られた状態で痛みがある中、再び快感が訪れ始めた。
 僅かに萎えていたそこはすぐに怒張し始める。
 吸いながら唇で愛撫され、更には舌で先端の小さな穴を抉るようにされれば途端に大量の精液が溢れ出す。

 「イかせて、イかせてくれ、よ」

 根本を握られているせいでイキたくてもイケない。絶頂の波は来るのだが、あと少しのところで遠ざけられる。それを何度も繰り返しされ、春臣は涙を流しながら千晶に訴えた。

 「じゃあさ、今の状態で役になりきってみてよ」

 「なりきるって...」

 「春臣は奏多、俺は凪。奏多なら今、どんな気持ちになる?教えて...ねぇ、教えてよ、ほら。」

 − 俺が、奏多。俺が...俺は、俺は奏多...

 言われるがまま瞳を閉じ、そして次に目を開けたとき―――

 「ぁ、好き...好きだ、なぁイキたい...イかせてくれよ」

 満面の笑みで春臣は千晶の首に手を伸ばし思わせぶりに擽った。

 「...はっ、やば」

 そこにいるのはまるで別人のようになった春臣であった。
 春臣からしたらイくことしか頭にない状態であったのだが、千晶はその姿にごくりと喉を鳴らした。

 「好き...好きだよ、愛してる」

 次に春臣は千晶の首に手を掛けてそのまま屈ませると、近づく唇に深いキスをした。
 唾液が絡まり合い口の端からは飲み込み切れなかったものが垂れ流れる。

 「なぁ、早く...一緒にイこうよ」

 口を離せば甘い言葉を囁くが、その心中は無であった。役になりきっている最中、春臣は春臣でなくなる。自身の感情を優先すれば役になりきれないからだ。嫌悪感があればそれは演技に影響してしまう。そうなればその時の自身の感情など邪魔なだけだと気がついてからはそうしていた。

 「あぁ、すごいね...はははっ、」

 そこからはあっという間のことであった。千晶は根本を握るのをやめるとその手は自身の性器を扱き、そうして再び春臣の性器を愛撫し始めた。
 すでに何度も絶頂までいきかけていたそこはすぐに吐精し千晶の口内を汚していく。
 上体を起こした千晶は見せつけるようにして春臣の精子を飲み込み、ゴクリと喉を鳴らすのと同時に自身も春臣の性器目掛けて吐精した。

 春臣の性器にかけられた千晶の精子はそのまま尻の穴まで垂れ流れベッドのシーツを汚していく。

 頬を赤く染め高揚したように息を乱す千晶だが―――

 「愛してるよ、凪」

 春臣の甘くそう囁く声で途端に、スッと表情を失った。

 「本当...馬鹿みたい」

 次に聞こえたのは冷ややかな声。しかし、それは春臣ではなく自身に言っているかのようであった。



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