初雪の下で
1
『 別れようか 』
それは初雪の下、突然言われた別れの言葉。
『なんの冗談だよ、』
高1の冬。初雪の日に告白されて付き合った。他愛ないことを話して、喧嘩して、仲直りして、恋人らしいこともして。
波風一つ立つことのない、幸せな日々。今日だってそう、いつものように授業を終えて同じ帰路を歩いていた。付き合って2年。まひろはずっと共に歩んでいくのだと思っていた。
『俺のこと、もう好きじゃなくなった?』
普段はあまり冗談を言わない目の前の男。その目元には影ができていた。
目の前の状況の意味が分からず薄ら笑いを浮かべるまひろに対して、その男の口元に笑みはなかった。
『なんで、だよ...っ、なんで急にそんなこと言うんだよ、』
何も言うことはない。そうして男はまひろに背を向けて歩いて行ってしまった。
意味も分からずに泣き崩れるまひろを一度も見ることなく...―――――
――― Prrrrr...
「...っ、」
鳴り響く電話の音。その音に起こされるようにしてまひろは目を覚ました。
「ぁ...はい、もしもし」
『まひろ先生!今どこですか!?早くしないとミーティングが始まってしまいますよ!』
寝ぼけた頭のまま、反射的に電話に出れば呆れた声が電話越しに向けられる。
「あー...今起きた」
『何やってるんですか!!あれほど明日は絶対に遅刻しないでくださいねって念を押したのに!!だからあなたは...――― 』
騒ぎ始めた相手の声にまひろはついついしかめっ面になってしまう。ヒステリー気味のその声は同僚のもの。
病院で医師として働いていたまひろをその同僚は甲斐甲斐しくも世話していた。それはもう母親のように。
「大丈夫、すぐ向かうって。ミーティングくらい俺がいなくても大して変わんないから」
『そういう問題じゃありません!社会人にもなって遅刻なんてことは―――― 』
「あー大変だ。パンが焦げちまう。俺、焦げたパン苦手なんだよな、ってことでちょっと切るな。それじゃあ、またあとで」
そう、てきとうなことを言い電話を切った。電話越しの声は最後まで何事かを叫ぶようにして騒いでいたがその声はまひろの耳には届かなかった。
「それにしても、目覚めの悪い夢だったな」
歯を磨く、まひろを映す鏡。その姿に、夢に出てきた自身の幼さは残っていなかった。
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