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世界の中心は誰の手に




 「...千佳。俺だよ、九十九」

 『あ?九十九?...今開ける』

 その言葉から1分も経たないうちに開けられる扉。玄関に立つ千佳は上半身裸で、ジーパンを履いている状態だった。どこか気だるそうな雰囲気。玄関に置いてあるのは、前にも見た女物の靴。
 九十九は既視感を感じずにはいられなかった。

 「何?九十九から来るなんて珍しいじゃん」

 後ろでガチャリと閉まる扉の音を聞きながら、九十九は動揺を隠せずに立ち尽くしていた。
 そんな九十九に向けられるのは苛立たしげな舌打ち。

 「なんだよ。言いたいことあるんなら早く言ってくんない?」

 そうして降ってくる千佳の言葉は前にも聞いたものばかりで...


 ― このままじゃ、ダメだ。同じことの繰り返しになる。


 「あっ...おい、九十九」

 そそくさと靴を脱いだ九十九は千佳の横を通り、寝室へと入った。

 見慣れた寝室。そんな中、一番目についたのは、ベッドの上の1つの膨らみ。

 「...ッ、!」

 それに近づき、白い布を捲れば女の裸体が出てきた。広がる情事の後の臭い。
 その生々しさに、思わず布を掴んでいた手は震え、嗚咽してしまいそうになる自分の口元を両手で押さえた。

 「あ゛ぁ...クソッ、」

 千佳の浮気現場を見たのはこれで3度目だが、ここまで直接的なものを見るのは初めてだった。

 ― もう、嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ...ッ、

 変わったと思っていた日常。しかし、現実、それは僅かな違いでしかなかった。しかもそれは最悪な形で証明されてしまう。

 「あーぁ、見られちゃった」

 「...ち、か」

 音もなく、立ち尽くす九十九を後ろから優しく抱きしめるのは、いつもの千佳だった。

 耳元で囁かれる千佳の声。九十九にはすでに、次に千佳が何を囁いてくるのかが分かっていた。

 「なぁ、俺さ...ヤり足りないんだよねぇ。あの女すぐ気失ってさ。...ヤらせてよ、」

 その言葉は脳裏に刻まれていた言葉と全く同じ言葉だった。

 「もうやめてくれ...やめてくれよ!!一体、俺が何をしたって言うんだ!!」

 バッと、千佳の腕を振り払い、九十九は叫ぶ。

 「...っ、何だようっせぇな、」

 沸騰するかのように溢れ出て来る恐怖をついに九十九は押さえられなくなった。
 非日常であるにも関わらず、自分以外誰もそのことについて違和感を感じていない。
 同じことを繰り返している。意識を失えば9月5日の朝に戻っていた。恐ろしい罪を犯そうと、何事もなかったかのように平和な日常がやってくる。

 正気を失ってしまうことの数々に九十九は不安を爆発させ、恐怖した。



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