最後に笑うのは、 5 「あはははっ、日向さんそんなこと大学でやっちゃったんだ」 「本当ヤバいよな。俺もちょー恥ずかしくてさ」 俺の部屋で会話に花を咲かせる2人。俺はムカムカとし、走らせていたペンを止まらせた。 「おい、二葉。勉強しないなら帰れ。何のためにお前はここに来てると思ってんだ。」 「う...ごめんなさい、」 一瞬にして落ち込んだ様子の二葉。そんな姿も、きっとこいつは本当に悪かったとは思っていないだろうな、と古くから二葉のことを見ていた俺は捉えていたのだが...日向はやはり違ったようで、 「なんだよ、その言い方。二葉がかわいそうじゃん。他にもっといい物言いがあるんじゃねぇの」 「...っ、」 「あっ、大丈夫だよ、日向さん!悪いのは僕だからさ、」 投げかけられる言葉は胸の深くに突き刺さる。そしてフォローするかのように告げられる二葉の言葉で苛立ちは膨らんでいく。 あれから2週間。二葉は毎日俺の家へ来て、同様に日向も毎日俺の家に来るようになった。 今日も休日だったため、昼間から2人は来てたのだが....どこかでバッタリ会ったらしく、2人で俺の家まで来ていた。 暑い夏の日。めずらしく開いた窓からは涼しげな風が入り込んでくる。 気持ちよさそうに目を細める2人。だが俺はその風を心地よく感じることができなかった。 突如崩された日常。目をそらす現実。不快な言葉。 この頃ぐん、と食欲が落ちたのは夏バテのせいだけではないはずだ。 胃がキリキリと痛むのも、頭痛がするのも、1人になった時、よく過呼吸を起こすようになったのも... 原因は分かってるんだ。俺が好意を寄せる相手に近づくのは、過去のトラウマ。 二葉は涼しい顔して...無垢を気取って明るく笑う。素知らぬ顔して日向に触れ、日向と話し、日向と笑い合う。 「...っ、トイレ行ってくる...」 目の前のトラウマのせいで込み上げてくる吐き気に、俺は堪えることができず立ち上がると足早に部屋を後にした。 「う゛ぐっ...が、はっ...はっ、ん゛...げほげほっ、」 朝は何も食べていないせいで便器に吐き出されるのは胃液のみ。 だから、吐いても吐いても苦しくて、スッキリしなかった。 ― 早く...早く、前みたいな日常に戻ってくれよ... ミンミンと鳴く蝉の声。 何故だか、その音は永遠に続くような気がした。 長い長い夏の日々。 悪夢はまだ始まったばかり [*前へ][次へ#] [戻る] |