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最後に笑うのは、
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 どれほどそうしていただろうか。唐突に自身のポケットで鳴り響く携帯の音で2人はハッとしたかのようにキスを止め、唇を離した。

 「...あっ、えーと...」

 途端、穂波を抱きしめる手を離して恥ずかしそうに目を泳がせる松高。
 その間に携帯をチラリと確認するが、それは携帯会社からの定期メールだった。

 「...って、あーーッ!!穂波先輩の鞄!!」

 松高が慌てた様子で手にするもの。それは自分の傘と、穂波の鞄。

 雨に濡れたのは松高と穂波だけではなかった。

 「あぁ、いいよ別に。その生地、合成皮だし。そんなに中も濡れてないだろ」

 「でも...うわ!ダメっす!!これはアウトっすよ!!」

 松高の手から鞄を受け取り、中を見るが予想に反して少しばかり濡れてしまっている参考書があった。
 だが、それは使い込んだもので、いくらか内容は頭にはいっていたため、穂波はたいして気にしてなどいなかった。
 そのため、かまわずその本をしまい、鞄のチャックを閉めて肩に背負おうとした。

 「か、買い直しますっ、!!鞄もちゃんと乾かしてから返します!!」

 「うわっ!いや、いいって松高。本当気にしなくて...」

 「ダメっす!!俺の気が晴れないんで...今日中に何とかするんで穂波先輩...もう少しだけ、この鞄お預かりしてもいいすか...?」

 自分で鞄を穂波の手から取って、元通りにして返すと強く言ってきたくせに、最後には犬のように上目遣いでお願いしてくる松高に、思わず穂波は苦笑する。

 「分かった。でも、わざわざ買わなくていい。変わりに、その参考書も一緒に乾かしてくれよ。よれてたって字は読めるから。あと、返すのは夏休み明けでいいぞ。どうせ始業式まであと1週間を切ってるんだ」

 そう言って口角を上げて笑めば、松高は照れたように笑い返してきた。

 「穂波先輩...俺のこと気持悪がらないんすか、」

 だが次に目を合わせた時、松高は眉を下げ自嘲気味に笑った。

 「後輩の、しかも同じ男の...俺なんかにキスされて、」

 口を開くたびに声のトーンが低くなっていく松高。


 「いや、俺は少なくとも嬉しかった。...と思う。」


 「え...っ、」

 「嫌じゃなかった。全然。」

 口を戦慄かせるのは松高で、穂波は自分のその言葉に頬を赤く染めた。
 
 日向の時とは違う、ドキドキが生まれる。日向が執着だとすれば松高は...

 
 「でもお前、彼女いるよな。ダメだろ、俺にキスなんかしちゃ、」

 「...っ、」

 「それじゃあ、俺は行くな。ここまでありがとう。鞄はよろしく」

 松高の顔は見ずに傘の中から出てマンションの入り口まで走る。

 「俺、夏休み終わるまでに全部はっきりさせます!!中途半端なままは嫌っすから!」

 そう穂波の背中に叫ぶ松高。穂波は振り返り、眉を下げて笑んだ。

 ― そうだな。俺も中途半端なのは嫌だ。全てケリをつけてやる。

 音を立てて降りしきる雨。松高は鞄を落とさぬよう強く抱きしめ、穂波は意を決してマンションの中へと入っていった。



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