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最後に笑うのは、
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 「...いや、何でもない。鞄本当ありがとな」

 しかし現実、そんな助けを求める声も理性で押し込んでしまう。
 結局は怖いのだ。全てを話して松高が自分から離れてしまうのが。自分を慕ってくれる松高。それでも、今の状況を話してもなお穂波を慕い、助けになってくれるとは限らない。

 ― 俺の日常は、周囲の人間関係は、おかしいんだ。

 今まで特に弊害もなく普通に過ごしてきた松高にとって穂波が話したい内容は、酷く重たいものに違いなかった。とても気軽に話せるような内容ではない。
 だから理性が働くうちに、さっさとマンションの中へと行ってしまおう、そう思った穂波は松高が持つ自分の鞄に手を伸ばした。

 「...ッ!ま、松高っ!?」

 その瞬間、穂波はその伸ばした手を松高に掴まれ、引き寄せられた。
 不意を突かれたことによって勢いが止まらぬまま、穂波は松高の胸に倒れかけ、強く抱きしめられる。
 雨でずぶ濡れの穂波を抱きしめることによって、松高の服にもじわじわと水が染み込むが、当の本人はそんなことに気を止めることなく、穂波を抱きしめ続けた。

 密着している部分から広がる松高の体温は心地よく、嫌悪を感じることはなかった。

 「な、何だよ急に、男同士で...――― 」

 「俺は!...俺は、おかしい...のかもしんないっす。自分のことが分からなくて...俺、穂波先輩が、――― きっと好きなんだ...っ、」

 眉を下げながらも、いつになく真摯な顔をしてこちらを見てくる松高。
 だが、そんな松高には...

 「何言って...お前彼女が――― んっ、んぅ...ッ、」

 松高の言っている意味がよくわからなかった。だから状況を整理しようとした。
 しかし次の瞬間には穂波は松高に唇を塞がられていた。どさり、と鞄が落ちる音がし、傘も手から離されたのか視界を陰るものが無くなり、変わりに冷たい雨粒が再び全身に降りかかった。

 不意を突かれ、空いた口内にぬるり、と温かい舌が入ってくる。鼻を抜けるような声が漏れ、穂波が驚き反射的に後ろへ顔を引けば、松高は後頭部に手を当て自分の方へと穂波を引き寄せた。

 歯列をなぞっては、舌を強く吸って甘噛みしてくる。近くに人目がないことが幸いだった。深くなっていく口づけ。
流れてくる唾液を飲み込めば顔がカッ、と熱くなった。
 不思議と感じられない嫌悪。あるのは安心感だけ。

 「...ッ、穂波...せんぱ、」

 熱い吐息を出す松高に掠れた声で名前を呼ばれる。雨で濡れた松高はやけに色香を放っているように見えた。そうして再び重なる唇。

 穂波はそれに抵抗しなかった。

 とても居心地がよかったから。どうしてか幸福を感じた。

 日向とはまた違う、特別な気持ちを松高に抱いていた。
 

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あきゅろす。
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