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最後に笑うのは、
26



 そしてあの日を境に俺は二葉に性行為を強制される日々が始まった。


 「ほら、見て穂波。僕が舐めたら、穂波のここすぐに大きく、固くなる」

 
 日向がバイトで昼間、いない日。二葉は当たり前のように服を脱ぎ、俺の服も脱がせる。


 「気持いい?ふふっ、気持ちいいよね。こんなに先走りでぬるぬるさせて、僕の中に入れたらすぐにイっちゃうんだから」


 この拷問のような日々を再び繰り返し始めてもう何度、二葉とヤッたか。


 「穂波、大好き。大好きだよ、ずーっとこうやって1つになれたらいいのに」


 “今日は勘弁してくれ” “日向が帰ってきたらどうするんだ” そんなことを言って行為をやめさせようとしても、俺が強くものを言うことができないと知っている二葉はただ笑うばかり。


 「また...あの日に戻ったみたい。僕と穂波が初めて1つになった日...あぁ、幸せだなぁ」


 飽きることなく続けられる行為。
 俺の体を跨いで腰を振っては勝手によがり、思い出したくもない過去の話を二葉は嫌味を言うかのように毎回、話してきた。本当に、二葉は狂っていた。


 「僕が穂波と同じ高校に入学して...穂波は最後の高校生活を迎えた時。ねぇ、すごく記憶に残ってるよ。あの日の全て。僕は全部覚えてるよ、穂波が何を話して、どう僕に触って、何回イったか」


 そうして二葉はまたいつものように、過去の話をし始めた。そのせいで俺の中では思い出したくもない過去の出来事をリアルに...鮮明に脳内に浮かび始めた。


 ―


 ――


 ―――


 人の密度が高い電車内。俺の下半身を弄る手。

 「...ちょっ、と...っ、」

 最悪なことに俺はこの時、初めて男でも痴漢にあうのだ、ということを身をもって経験している最中。
 明らかに男の手だとわかるそのごつい手は、ついにはベルトを外し下着の中に入ってくる。
その手を止めさせようとしても、時すでに遅く、僅かに反応している急所を強く握られてしまえば、一気に体の力は抜けてしまう。
 そうなってしまってはしょうがない。と、早く降りる駅になることばかりを願っていた時、


 「おじさん、何してるの?」


 底冷えするほどの冷たい、二葉の声が男に向けられた。
 
 その時、ほぼ同時に電車が駅についたかと思えば、痴漢をしていた男は俺と二葉の手をとり、電車の外へと連れ出す。
 そして男は人気のない所まで俺たちを連れていくと、漸く足を止めこちらを見てきた。

 「あのね、さっきのことなんだけどさ―――」

 「穂波の体にその汚い手で触ったこと?」

 「...っ、あぁ、それなんだけどね、他の人には言わないでくれないかなぁ。ほら、お金あげ――――ひっ、!?」

 「なっ、二葉何出してんだよ!!」

 男が出したのは数枚の一万円札。そして二葉が手に持つのは...刃が出されぎらつく、カッターナイフ。

 「だって、僕の穂波に触ったんだ。...許されることじゃないでしょ?」

 二葉は男一直線に刃を向け、口角を上げるが、目は笑っていなかった。
 そして、息つく間もなく二葉は一歩男の方へと踏み込み、刃を振りかざした。

 「う、うわぁっ!!」

 「...ちっ、」

 しかし、男は運よくかわし床に転がるようにしてうつ伏せに倒れ込んだ。
 それでも幸運なことはそれまで。倒れている男の背を二葉は踏みつけ、男の動きを止めてしまう。

 「ひぃっ、た、助けてくれぇ、」

 「二葉やめろ!!さっさとそのカッターしまえ!」

 「あーもう、どうして止めるのさ...しょうがないなぁ、じゃあ条件を出してあげる。」

 「条件って、お前...」

 「僕のお願いを聞いて。何でも。そしたらこの男は見逃してあげてもいいよ?」

 俺の方など見もせずにしゃがみ込んで男に刃を当てる二葉にヒヤっとした。
 ここは人気がない。見ているのは俺だけ。

 二葉が本気だということに疑う余地などはなかった。

 「わかった!きくよ、聞くから!だからやめてくれ、俺はここまでしてほしくはない!!」

 そう俺が言った瞬間、二葉は目を見開かせて笑みを浮かべると、漸く男から足を退かした。
 
 そしてその願いが何かも知らず、その時の俺はホッと胸を撫でおろし、安心した。


 “僕を抱いてほしいんだ”二葉のその言葉を聞くまでは。



 

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