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最後に笑うのは、
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 「...日向はいつ帰ってくるんだ。もう6時を過ぎる。夕方には帰ってくるんじゃなかったのか、」

 「んー。多分、もうすぐ帰ってくるけど...穂波、そんなにすぐここから出ていきたいの?僕と一緒にいたくないの?」

 ソファに座る穂波の横にいる二葉は、突然無表情になり、こちらを見つめてくる。

 「...っ、別に、そういうわけじゃ...」たまらず、そう言えば二葉は嬉しそうに笑った。

 「そうだよね!...ふふっ、でもついにここでも愛し合っちゃったね、」

 「ッ、やめろ」

 穂波の腕に手を絡ませ、肩に顔をのせてくる二葉の行動、そして今の発言に対して穂波は反射的に立ち上がった。
 好きな人間の家で嫌いな人間を抱いて、汚した。そのことに対しての罪悪感が穂波に重く圧し掛かっていた。

 「穂波、そんな顔しない――――」

 「だたいまー、」

 その時、二葉の言葉を遮るかのようにして玄関のドアが開く音がし、日向の声が部屋に届いてきた。

 「じゃあ、俺は帰る。お前が1人でいるのが嫌だといったから、俺はここにいたんだ。日向も帰って来たし、もういいだろ、」

 「...なんか言い方冷たーい」

 「元々俺はそんな甘いことを言うような性質じゃない。お前ならわかるだろ」

 そして嫌悪を覚えるほど嫌だったが、何とかその場を繕うために軽く二葉の頭を撫で、扉に向かって歩き始める。
 そうすれば「また明日ね、穂波!」と明るい声が背中にぶつけられ、俺は安堵の息を吐き出すと居間の扉を開けて玄関へと向かった。
 

 「...おかえり日向。今日は帰ってくんの遅かったんだな」

 「あぁ、まぁね」

 居間を出て短い廊下に出れば、バチリと日向と目が合う。
 少しでも会話ができたら...そう思ったのだが、そんな願いも空しく日向は無情にも穂波の横を通って居間の方へと向かった。

 ― 本当に、変わっちまったな...

 のろのろと靴を吐きながら今の状況を考え物悲しくなった。

 早くどうにかしなければ...

 悩みを感じればすぐに出てしまうため息。それを抑えこみ、玄関の扉を開けようと手を添えた。


 ― バンッ、!!


 「...ッ!」

 突然、後ろから手が伸びてきて頬をかすった。そして穂波を囲むようにしてその手は扉についた。

 「お前から俺んとこのシャンプーの匂いがする」

 「ひな、た...」

 耳元で囁かれる声。首にあたる、柔らかい髪の毛。

 「シャワー、使ったの?」

 スン、と首元の匂いを嗅がれて一気に顔が熱くなった。

 「...ここに来るまでに、熱かったから汗をかいて...ごめん、勝手にかりた。」

 「別に使ったことなんてどうでもいい。...それより、本当にそれが理由なわけ?」

 「...っ、」

 いつになく勘が鋭い日向の発言に言葉を飲み込んでしまう。

 「他に理由なんてないだろ、」

 「...あるだろ?もう1つ、汗を流す理由。」

 「ぅあっ、」

 きゅ、とジーンズ越しに性器を握られ声が震えた。
その行為のせいで快感と先程に対しての罪悪感が心の中をせめぎ合う。

 「日向さーん、お腹が空いたよー。何してるの?」

 その瞬間、居間から二葉の声が響いてきた。
それと同時に穂波の意識も現実に戻る。
 そして悲しくも必然的にその声に気をとられる日向...


 「それじゃあ、」


 その隙をついて穂波は急いで扉を開け、外へと飛び出していった。



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あきゅろす。
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