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最後に笑うのは、
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 「起きたんなら帰れ。熱が二葉にうつると困る。」

 「日向...」

 ガチャリ、とドアが開く音がしたかと思えば、次に聞こえたのは相変わらず冷たい口調の日向の声。
 先程、穂波と一緒に眠りについていた時の、穏やかな表情は一変し嘘だったかのように思えるほど日向は鋭い目つきでこちらを見てきていた。

 「そうだな。帰るよ」

 「えっ、でも穂波まだおでこが熱いよ?帰ってる途中で倒れちゃったら...」

 「...っ、」

 スッと伸びた二葉の手は穂波の前髪を掻きあげてでこに触れる。思わず反射的に身を引くが二葉は特に気にする様子もなく、「心配だから僕が家まで送るよ!」などと戯言を吐き始めた。
 そんなことされたら、ストレスで余計に体調が悪化しそうだ、と眉をひそめ、口元を引くつかせる。

 「いや、見送りなんていらな...――― 」

 「二葉が送らなくても穂波は大丈夫だよ。それに二葉は勉強しなきゃ。昨日、早く帰ったからできなかったところあるだろ?」

 「うーん、」

 日向は悩む二葉の腕を掴み、立たせると自分の方に引き寄せた。
 その様子に僅かに穂波の顔には苛立ちが浮かぶ。それを敏感に感じ取ったのか、急に二葉は日向の言葉に肯定し、甘えるようにして日向の腕に自分の腕を絡み始めた。

 「じゃあリビングでやろうか」

 「うん!」

 そして1度も振り返ることなく日向は寝室をあとにする。


 「...ッ!」


 それに続いてそのまま二葉も出ていく...と思っていたが、二葉はちらりとこちらを一瞥し、意味ありげに微笑みを穂波に向けてきた。
 俺を嘲笑うかのように。心からの笑みを、俺に向けてきたのだ。

 目を見開く俺を見た二葉は満足したのか何を言うでもなくそのまま寝室をあとにした。

 
 二葉が俺から離れるやいなや笑顔になる日向。俺の様子を窺って日向に媚びる二葉。

 「...クソッ、」

 怒りのまま唇を噛みしめればブチリ、と唇の皮が切れ、新たに傷が増えた。

 ― 日向は、騙されてるんだ。じゃなきゃ...おかしい。おかしいじゃないか...っ、
 あんな気狂いに...日向は、

 「俺が気がつかせてあげなきゃダメだ。あんな気狂い、日向の隣にふさわしくない」

 逃げているだけじゃダメだ。この夏で...全てを元に戻してやる。
 日向はこの暑さに浮かされて物事の良しあしが分からなくなっているんだ。それに加え、日向はお人好しで優しいから...だから...

 きっと、俺がどうにかすれば日向とまた笑い合える日が...。

 これからのことを考え、上がる口角。


 「 日向は俺のものだ 」


 そして笑い声が聞こえるリビングを背に、穂波は1人、日向のマンションを後にした。

 

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