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最後に笑うのは、
19



 「い゛た...ひな、た...ひなた、やっ...うぐっ、が...ぁっ、」


 「あーぁ。汚いなぁ。穂波はどんだけ迷惑かければ満足するんだよ」


 数度目に蹴りあげられた時、鳩尾に日向の足がヒットした。その衝撃で胃がせり上がり食道から口内へと駆け上がって来たものを俺は吐きだした。
 しかし、朝から何も食べていないせいで出るのは胃液のみ。逆にスッキリせずそれが苦しかった。

 それでも先程から続いていた吐き気のせいもあるのか、嘔吐は1度で止まらず2度目も起こる。
そのせいで部屋には悪臭が漂い、日向は小さく舌打ちした。


 「ひっ...ぁ、な、何...っ、」


 嘔吐が止まった頃、急に襟首を掴まれ引きずられた。不安を覚えた俺はなんとか襟首を持つ日向の手を離そうと抵抗するが、たいして力が入るはずもなく体は強制的に引きずられ続ける。


 「ご、ごめん...っ、悪かった、俺が悪かったから...――― 」


 力でダメなら、言葉でどうだと、今度は必死に謝罪をする。しかし引きずる間、日向は一言も口を開かず...


 「俺は汚いものを部屋に入れておくつもりはないから」


 漸くそう日向が言葉を発した時、俺は――――

 「だからきれいになって、そしてちゃんと反省するまでそこにいなよ」


 ベランダに放り投げられ、日向の冷たい瞳に見下ろされていた。
 ガチリ、と締められる鍵の音がやけに大きく聞こえた。


 「そん...な、ひなた...」


 へたり込み、ガラス張りの扉に縋りつく俺は去っていく日向の背中しか見ることを許されず、降り始めた雨はしとどに俺の全身を濡らす。

 「ひなた...ひな、た...ひなた...っ、」


 「開けて...開けてくれよ、ひなた...っ」


 ズキズキと痛む頬。朦朧とする意識。全身に走る鈍い痛み。
 時間が経つほどに雨足はどんどんと酷くなっていった。

 そうして頬を濡らし、流れるものが涙か雨水か分からなくなった頃、とうに限界を超えていた俺の体から完全に力が抜け、意識も暗闇のそこへと沈んでいった。


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あきゅろす。
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