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最後に笑うのは、
15



 夏休みも1週間目を超えた時、過度なストレスによる食欲不振、体調不良で追い込まれていた俺はついに熱を出した。
 俺の熱に気がつくことなく母親は朝早くに仕事に行ってしまった。家の中で1人、吐き気と頭痛をこらえながら布団の中で蹲る。

 一度病院に行こうと思いはしたものの、熱で朦朧としている体はいうことを利かず、結局は朝から寝たきりの状態になってしまった。
 とりあえず、忙しそうにしていた母にメールで状況を伝える。するとすぐに電話がかかり、昼に帰るから一緒に病院に行こうと言われた。母の心配そうな言葉に短い返答をし、電話を切った。


 ― あぁ、そうだ。日向にも連絡しなきゃ...


 夏休みは毎日、日向の家に行っており、いつも通り今日も昼から日向の家に行って二葉の勉強を見ることになっていた。
 すぐさま、俺は枕元に置いてある携帯に再び手を伸ばす...が、


 「...っ、」


 激しい頭痛で一瞬めまいを起こし、手元がくるって携帯を床に落としてしまった。
 落ちた携帯は勢いよくスルスルと床を滑り止まる。
 
しょうがなく重たい体を起して携帯を拾うためにベッドを下りた。しかし、床に足をつけ、立ち上がった瞬間ひどい立ちくらみと頭痛が俺を責めたて、力の入らなくなった体は床に倒れる。
 意識が曖昧なせいか倒れた時の痛みはなかった。

 目の前にある携帯電話。俺はカタカタと震える手を携帯へと伸ばし―――― 意識を飛ばした。


 次に目を覚ました時、俺の視界に写り込んだのは白い天井と涙ぐむ母親の姿だった。

 「あ...俺、」

 「よかった...家に帰ったら穂波、部屋の中で倒れてるから...母さんびっくりして...ごめんね、朝あんたの顔見てから仕事に行ってればよかった。そしたら、あんたの異変に気がつけたかもしれないのに、」

 「心配かけてごめん、母さんは悪くないから」

 消毒液の匂いが鼻を掠め、点滴のために腕に繋がる細い管が目に留まる。
 どうやらあの後俺は病院に運び込まれたらしく、声を震わせる母は疲れ切った顔をしていた。

 「あと、軽度だけど栄養失調の症状があったみたい。だから一応点滴はしてもらったけど...あの、穂波。最近、ご飯もまともに食べてなかったでしょ?それが原因だってことはわかってるんだけど、その...何か悩み事でも、」


 「そんなのないよ。ただの夏バテ。最近すごく暑かったから食欲がわかなかったんだ。母さんが心配するようなことは何もないよ」

 幾分か熱が下がったのか、スラスラと言葉を投げかける口。
 それでも母は納得のいかない顔をしていたが「何かあったらすぐに言いなさいよ」とだけ言い、顔をしかめさせたまま口を閉ざした。

 だけど、その言葉に俺は返事をすることはできなかった。


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