最後に笑うのは、 10 大学を下った先にある、バス停前。バスの行き先が違うためそこまでが俺たちの同じ帰り道。 時間を確認すれば、数分後に日向が乗るバスが来る。その少し後に俺の乗るバスが来ることになっていた。 今日は日向は用事があるらしく、俺の家には来ないでまっすぐ帰る。 「言おうと思ってた話しなんだけどさ、」 黙っていた日向はふと、俺の顔を見、口を開ける。 身構える体。嫌な考えを押しこめ俺は笑顔で相槌を打つ。 「夏休みの間、二葉を俺ん家に住ませることにしたんだ」 「...は?住ま、せるって...」 息が詰まった。笑顔のまま固まる表情。 理解できなかった。...いや、したく...なかった。 「ほら、俺1人暮らしじゃん。部屋も1つあまってたし、」 「ちょ、ちょっと待て。なんで急にそんなことになってんだよ」 「別に急なことでもないぜ?二葉とは結構前からこのこと話してたから」 「でも、お前ルームシェアとか嫌がってたじゃねぇか。それなのに、―――」 「あ゛ー、穂波うるさい。いいじゃん、俺らで決めたことなんだから、文句言うなよ」 「...っ、」 強い口調。苛立った日向の様子に、俺は慌てて口を閉ざす。 今聞かされた事実に対して言い知れぬ苛立ちを感じているのは俺の方なのに、 これ以上、日向に冷たい視線を向けられるのが怖くて俺は何も言えないまま、拳を握る。 「...別に、俺は反対してるわけじゃない。」 思っていない言葉を口にする。だが、そう言わなければ日向は機嫌を直してくれない。 案の定、俺のその言葉に日向は笑みをつくった。 「だよな。あっ!でさ、1つ頼みがあるんだけど、」 「頼み、?」 「あぁ。夏休みの間、毎日俺の家に来てくれないか?二葉がさ、言ってたんだよ。 勉強はやっぱり約束もあるし、できるだけで良いから穂波に見てもらいたいって。あとほら、俺も夏休みはバイトで日中家にいないことがあるからさ、」 「な、いいだろ?」明るいその声に有無を言わせぬ威圧感を感じ、俺は日向の顔を見ないまま、こくりと頷いた。 だが、心の中は二葉に対する嫉妬で溢れかえっていた。 二葉に近づく日向。二葉のために動く日向。俺の意見よりも二葉のことを大切にする、日向。 俺の方が日向と長く一緒にいたのに。俺よりも二葉との距離の方が近いのだ、ということが手に取るようにわかった。 「言いたかったのは、それだけ。それじゃあな、」 タイミングよく来たバス。言うことだけ言ってスッキリした様子の日向は俺の歪んだ思いに気がつくこともなく、 足早にバスの中へと乗り込んだ。 日向は俺のものなのに...。二葉は男だ。女じゃない。それなのに俺よりも優先されるなんて... ― そんなの認めない。ありえない。絶対に信じない。 去っていくバス。俺は開いた瞳孔を閉じることなく、その姿が見えなくなるまで見続けた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |