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リクエスト小説




 こいつは俺のことが好きだと言った。

 「んっ、あっ、あぅ...み、湊...っ、」

 そう、今まさに自分の下で腰を振って善がっている、この男、児玉那智が。

 「ひっ、ん゛ん...く、るし...」

 こんな風に深くキスをして、呼吸もままならなくさせて。はたから見れば恋人みたいな熱いキス。

 「好き...み、なと」

 頬を赤くさせ、口の端からだ液を零れさせて、蕩けた顔で那智は愛を叫ぶ。
 だが湊は特別那智に愛情を感じているわけではなかった。

 ― 抱いている目的は清水啓吾への嫌がらせ

 湊の想い人である望は一途に啓吾を想っていた。しかしその想い人の好きな奴は自分に愛を囁くこの男だったのだ。
 好きでない男でも抱くことはできる。望をとられたのだ、これぐらいの嫌がらせをしても罰は当たらないだろう。

 何より、今日のこの行為のことを聞いた瞬間の啓吾の歪んだ顔がみたい、そんな衝動に駆られていた。快楽に身を投じる男の腰を掴み、ゴムもしていないそれで中に熱い白濁を迸らせる。

 「中に出しちゃった」

 自分の精子で顔面を汚す児玉は気の抜けた顔で夢うつつに笑んだ。
 勝手に両思いだと思い込んで、幸せに浸るこの男が馬鹿に見えた。何も疑わない、その瞳をもっと汚してしまいたくなる。
 湊は小さく舌打ちすると、うつうつとし始めた那智を放置してシャワーを浴びに浴室へと向かった。
 それからの手順は簡単だった。啓吾を那智の名前を出してホテルの前に呼ぶ。あとはそんな啓吾を那智と2人でホテルから出迎えるだけ。
 
 ― きっと清水はそれが嫌がらせだとすぐに気が付く。そして嫉妬して傷づくんだ。

 そして俺はそんな姿を見てほくそ笑む。...――そのはずだった。

 「...え、けい...ご、どうしてここに」

 予定通り那智とホテルから出れば、そこには走ってきたのか、汗を滴らせる男、啓吾の姿がそこにあった。

 「お前こそどうして湊とホテルから...あぁ、そういうことね」

 そしてすべてを察した啓吾は湊のもくろみ通り嫉妬で顔を歪ませ、それ以上何を言うでもなくその場を立ち去っていく。

 「じゃあな、負け犬さん」

 湊の投げかけに啓吾は一度足を止めるが、拳を強く握り再び歩み始めた。
 そんな姿に湊は笑みを隠せずにいた。愉快だった。優越感を感じていた。

 ― それなのに、

 「啓吾!!待って...待てよ!!」

 自分の隣に居たはずの存在は清水を追いかけようと体を前傾させた。その瞬間、湊は反射的に那智の腕を強く掴んだ。

 「どこ、行くつもりだ。追いかけるのかよ、いいじゃんあんなの放っておけば」

 「で、でも...」

 「俺のこと、好きなんだろ」

 強く、言い聞かせるように毒を吐く。なぜだか、今この場で清水の下へは渡したくなかったから。

 ― そうだ。今、児玉が言ってしまえばせっかくの嫌がらせが台無しになってしまう

 だからこんなにもこの男が自分の下から離れて行こうとするのを止めているのだ。

 「...っ、ごめん、だけど...啓吾のことは放っておけない」

 そういうなり、那智は湊の手を振り払い、啓吾の下へと駆けて行った。
 湊はそんな男の背中をただただ茫然とみつめる。そこに愉快さはなかった。優越感もなかった。

 ― ただ少し、胸がもやもやとした。

 あいつは俺のことが好きだといった。それなのに今、あいつは俺の手を振り払ってまでして清水の下へと走っていった。


 「あー、うぜぇ」


 このもやもやとした気持ちの悪さや、苛々する感情があるのは嫌がらせが失敗してしまったからだ。
 そうきっとそうだ。

 そうして、ふと見えたのは...ガラスの壁にうつる、啓吾と同じように顔を歪める自分の姿だった。


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