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リクエスト小説




 シーン、と静まっている室内。ベッドに仰向けで横になり、天井を眺め続けて一体どれくらいの時間が経っただろう。
 不意に渉の耳に聞こえてきたのは1階からの話し声。声からして、父母、そして歩の3人であることは断定できた。
 そしてバタン、と閉まる玄関の扉の音。次いで聞こえるのは...――― 階段を駆け上がる音。


 ― ガチャッ、!!


 「...ッ、」

 「渉!明日の夜まで僕たち2人でお留守番だよ!」

 ノックもなしに開けられた扉から現れた歩は満面の笑みを浮かべて最悪な一言を渉になげかけた。


 ――


 ――――


 ――――――


 「 冗談じゃない、」

 歩が部屋を出てすぐ。渉はベッドから起き上がり出掛ける支度を始めた。
歩が言うには、父母の2人は先月病死した使用人の子供を引き取りに向かったらしかった。
 そう言えば聞こえはいいが、所詮はその行動も評判を上げるためだけのものだ、ということは分かっていた。
 だが、そんなこと渉にとってはどうでもいいことだった。問題なのは一晩でも兄である歩と家に2人きりという状態になるということ。
親の目がない今、どこで何をされるか分かったものではなかった。

 一晩泊らせてくれそうな友人に連絡すればすぐに了承の返信が着た。
 歩が再び部屋に入って来ないうちにさっさと家を出てしまおうと、準備が終わった渉はそっと扉に耳を押しあてて、部屋の外の物音を聞き取ろうとする。
 しかし、特に物音は聞こえず、渉は安心してゆっくりと扉を開けた。


 「 ど こ に 行 く つ も り ? 」


 「...ッ!!」


 瞬間、渉は驚き大きく後ろに下がった。

 「家にいるのに、どうしてそんな格好をしてるの?」

 扉を開けた、すぐそこに立っていた歩は無表情で渉を見つめる。
 有無を言わせぬその瞳によって、今までの“躾”で生まれた恐怖心が心の中で燻る。

 「今日はお手伝いさんも来ないから、ご飯は僕が作るね!...そろそろ夕飯にしようか。ほらほら、そんな上着は脱いで、」

 そして急に笑顔になった歩は渉の上着に手をかけてきた。恐怖で言うことのきかない体は、あっさりと上着を脱がされ、歩に腕を引かれるまま1階にある居間まで連れて行かれる。

 「はい。じゃあ、渉はソファに座っててね。」

 半ば無理矢理ソファに座らされる。「どっかに言っちゃダメだよ?」そう言い、俯いた渉の顔を覗き込み、歩は笑みを向ける。
 それに対してヒクつく渉の唇にバードキスをして、満足気に歩はキッチンの中に入った。


 ― クソ...っ、馬鹿みてぇに体が動かねぇ...ッ、


 微かに震える体。そこからは長年の支配から染み込んだ恐怖が滲みでていた。

 「ふふふっ、渉はソファに座ってテレビを見て、僕はその姿を見ながら料理を作る...なんか、新婚夫婦みたいだね、」

 そんな嬉しそうな歩の声が耳を通って脳まで伝わる。その響きに渉は吐き気を覚えた。



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