リクエスト小説
2
「どうかしたんですか?」
それはついこないだ藤峰に対してかけた言葉と同じもの。
ただ、状況は少し違った。
「あの、藤峰さん...?」
前回と違うところといえば、周りに大量の買い物袋はなく、あるのはコンビニの袋が1つだけだというのと、しゃがみ込んでいる場所が...――― ユキトの部屋の前だ、ということ。
「僕に何か用ですか?」
「 ...っ、」
「え...くれるん、ですか?」
突然立ち上がった藤峰。おずおずと突きだされた手には何やら食べ物が入ったコンビニの袋。
藤峰は顔を俯かせ、何を発することもなくただただ手を突き出し続ける。
どうしようか、そう思いながらも袋を受け取れば、藤峰はそそくさと隣の部屋へと入っていった。
「...なんだったんだ、」
首をかしげながらも、ユキトも自分の部屋へと入った。袋の中を見れば、いくつかの甘味物と一枚の紙が入っていた。
“ 先日はありがとうございました ”
紙にはそう書かれており、思わずユキトは笑ってしまった。
「わざわざ書かなくても...口で言ってくれればいいのに、」
それはやはり藤峰という男は、今までに会ったことのない人だな、と改めて思わせられる出来事だった。
――
―――――
―――――――――
藤峰という隣人は、俗に言う“コミュ障”というやつなのかもしれない。ユキトは藤峰の言動を思い返してみてそう思った。
あれから数日。ユキトはよく藤峰と関わるようになっていた。...というよりも、ユキトから藤峰に接触するようになった。
そして今日もチャイムを鳴らし、僅かに開けられるドアの隙間から藤峰に笑顔を向ける。
「藤君、今日バイト先でケーキをたくさんもらったんだ。よかったらどうかな、」
「 ...。 」
「たしか、藤君の好きなチョコレートケーキもあったはず!ね、おいでよ」
そう言えば、藤峰は顔をカチカチに硬直させたまま鈍い動きでユキトの後について自分の部屋を出た。
「てきとうに座ってよ、」
自分の部屋の中に藤峰がいる、というこの状況は自身の行動によるものだが、つい数日前には想像もしていなかったことだった。
藤峰に笑いかけ、ケーキと飲み物の用意をする。...しかし、その間もずっと藤峰はどこかに座ろうとはせずに同じ場所に直立し続けていた。
「じゃあ、よかったらここどうぞ」
そういって指差すのは、机をはさんで座った向かえの位置。そうして漸く藤峰はかしこまりながらもちょこんとそこに座った。
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