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リクエスト小説




 「帰って来ないかぁ、」

 一人、ポツンとソファに座る綾西。寂しげな空気。しかし、食卓の上にあるのは、そんな空気とは正反対の豪勢な料理の数々。とっくのとうに冷めきった料理だが、どれも愛都の好物のものばかりだった。
 今日は付き合い始めて1年経つ恋人、愛都の誕生日だった。

 愛都に喜んでもらいたい一心で、不慣れながらにも作った料理。だが、いつになっても愛都が帰ってくることはなく、時間だけが刻一刻と過ぎ去っていく。

 今頃、愛都は恵や和史のところに行っているのだろうか、と考えれば胸がズキズキと痛んだ。

 「いいんだ。いいんだ別に...俺が一番じゃなくても」


 ― そもそも俺が愛都の恋人になれたってだけでも奇跡だしな。


 カチカチと動くたびに鳴る秒針。そして一際大きな音でカチリとそれは鳴り...

 「過ぎちゃった、」

 日付は変わり、時間は12時をまたいだ。

 愛都が帰ってくることなく終わった誕生日。それが悲しいなんて思ってしまう自分の女々しさが嫌だった。

 一体誰と愛都は誕生日を過ごしたのだろうか。どんな表情をして、何を話して楽しんだのか。

 口から出そうになるため息。だが、綾西はそれを飲み込み、立ち上がる。
 気分転換に外を歩こうとジャンパーを羽織り、玄関へと向かった。

 そして靴を履き扉を開けた時、


 「え...まな、と」


 ドアの前で立ち尽くす愛都と綾西は向かい合った。
仏頂面でいる目の前の人物は見るからに不機嫌なオーラを醸し出していた。

 「お、おかえり愛都....中に、どうぞ」

 しかし一向に中に入ろうとしない愛都。

 そのため、らちがあかないと、怒られるのを承知で愛都の手を引けば、意外にも愛都はそのまますんなりと中に入って来た。
 だが、それから靴を脱ぎ、再び愛都は動きを止め立ち尽くす。

 「...どうしたの愛都、具合悪い?」

 愛都の手を握り、俯くその顔を覗き込むが、やはり表情は仏頂面のままだった。

 「もう遅いし、眠たいよね。寝室まで歩ける?」

 「...で...は、」

 「ん?」

 「なんで、お前は...怒らないんだ」

 漸く俯く顔を上げた愛都。

 「俺の誕生日...お前は一緒に過ごしたいって言ってただろ。楽しみにしてるって、」

 その言葉で綾西はなぜ愛都が不機嫌なのかがわかり、嬉しくて笑みを浮かべそうになってしまう。



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