リクエスト小説
1
「帰って来ないかぁ、」
一人、ポツンとソファに座る綾西。寂しげな空気。しかし、食卓の上にあるのは、そんな空気とは正反対の豪勢な料理の数々。とっくのとうに冷めきった料理だが、どれも愛都の好物のものばかりだった。
今日は付き合い始めて1年経つ恋人、愛都の誕生日だった。
愛都に喜んでもらいたい一心で、不慣れながらにも作った料理。だが、いつになっても愛都が帰ってくることはなく、時間だけが刻一刻と過ぎ去っていく。
今頃、愛都は恵や和史のところに行っているのだろうか、と考えれば胸がズキズキと痛んだ。
「いいんだ。いいんだ別に...俺が一番じゃなくても」
― そもそも俺が愛都の恋人になれたってだけでも奇跡だしな。
カチカチと動くたびに鳴る秒針。そして一際大きな音でカチリとそれは鳴り...
「過ぎちゃった、」
日付は変わり、時間は12時をまたいだ。
愛都が帰ってくることなく終わった誕生日。それが悲しいなんて思ってしまう自分の女々しさが嫌だった。
一体誰と愛都は誕生日を過ごしたのだろうか。どんな表情をして、何を話して楽しんだのか。
口から出そうになるため息。だが、綾西はそれを飲み込み、立ち上がる。
気分転換に外を歩こうとジャンパーを羽織り、玄関へと向かった。
そして靴を履き扉を開けた時、
「え...まな、と」
ドアの前で立ち尽くす愛都と綾西は向かい合った。
仏頂面でいる目の前の人物は見るからに不機嫌なオーラを醸し出していた。
「お、おかえり愛都....中に、どうぞ」
しかし一向に中に入ろうとしない愛都。
そのため、らちがあかないと、怒られるのを承知で愛都の手を引けば、意外にも愛都はそのまますんなりと中に入って来た。
だが、それから靴を脱ぎ、再び愛都は動きを止め立ち尽くす。
「...どうしたの愛都、具合悪い?」
愛都の手を握り、俯くその顔を覗き込むが、やはり表情は仏頂面のままだった。
「もう遅いし、眠たいよね。寝室まで歩ける?」
「...で...は、」
「ん?」
「なんで、お前は...怒らないんだ」
漸く俯く顔を上げた愛都。
「俺の誕生日...お前は一緒に過ごしたいって言ってただろ。楽しみにしてるって、」
その言葉で綾西はなぜ愛都が不機嫌なのかがわかり、嬉しくて笑みを浮かべそうになってしまう。
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