リクエスト小説
2
「愛都君!どっかに行くのー?」
「あぁ、沙原君。いや、ちょっと散歩」
休日の午後。叶江からのメールも無視し寮を出ようと、玄関で靴を履いていれば明るい声が向けられる。
「散歩かぁ、いいね!んー...よかったら、僕も一緒に良いかな?」
いつもはうざったらしく感じていた沙原だが、叶江のことがあったせいか話していて嫌な感じはしなかった。だから、愛都は笑顔で了承し、そして沙原の手をとった。
―
――
―――
「あれー?あそこにいるの、恵君じゃない?」
しばらく外を歩き、日も暮れてきたところで来た道を戻っていれば、沙原は大きな目を細くして遠くを眺める。
「...あぁ、本当だ」
沙原が見ている方向を見ると、寮の玄関の入り口に立つ、叶江の姿があった。
― まさか、俺を待っているのか...
その考えは決して自意識過剰ではないはずだ。
それを証拠に帰って来た愛都の姿を見つけた叶江は、視線をずらすことなくじっとこちらを見つめてくる。
「愛都君のこと、待ってるんじゃない?」
「...そうかもな。でも俺、今、恵君とちょっとケンカ中なんだよね、」
「え、そうなの?...愛都君もケンカとかするんだね」
「ふふっ、俺だって人間だからね。とりあえず、今はそういうことだから、少し距離を置いてるんだ。」
「そっかぁ...」
俺が叶江とケンカをし、距離を置いているといえば、どこか嬉しそうな顔をする沙原。
俺はその様子に気がつかないふりをした。
そうしている間にも近づく距離。
「 愛都 」
聞き慣れた声に呼び掛けられる。しかし俺は見向きをせずに横を通り過ぎようとした。
「 待て 」
パシリ、と掴まれる腕。そのせいで歩みは止められる。
「悪いけど、疲れてるんだ。部屋に戻らさせてもらう」
掴まれていた手を払い、立ち尽くしている沙原の手をとって寮の中に入る。
沙原が目の前にいる手前、あまり強くものは言うことができないがそれでも、目も見ることなくハッキリとした拒絶の意思を向けた。
そして部屋に入るまでの間、俺は叶江のいる後方へ一度も振り返ることなく歩き続けた。
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