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リクエスト小説




 「愛都君!どっかに行くのー?」


 「あぁ、沙原君。いや、ちょっと散歩」


 休日の午後。叶江からのメールも無視し寮を出ようと、玄関で靴を履いていれば明るい声が向けられる。


 「散歩かぁ、いいね!んー...よかったら、僕も一緒に良いかな?」


 いつもはうざったらしく感じていた沙原だが、叶江のことがあったせいか話していて嫌な感じはしなかった。だから、愛都は笑顔で了承し、そして沙原の手をとった。


 ―


 ――


 ―――


 「あれー?あそこにいるの、恵君じゃない?」


 しばらく外を歩き、日も暮れてきたところで来た道を戻っていれば、沙原は大きな目を細くして遠くを眺める。


 「...あぁ、本当だ」


 沙原が見ている方向を見ると、寮の玄関の入り口に立つ、叶江の姿があった。
 
 ― まさか、俺を待っているのか...

 その考えは決して自意識過剰ではないはずだ。
それを証拠に帰って来た愛都の姿を見つけた叶江は、視線をずらすことなくじっとこちらを見つめてくる。


 「愛都君のこと、待ってるんじゃない?」


 「...そうかもな。でも俺、今、恵君とちょっとケンカ中なんだよね、」


 「え、そうなの?...愛都君もケンカとかするんだね」


 「ふふっ、俺だって人間だからね。とりあえず、今はそういうことだから、少し距離を置いてるんだ。」


 「そっかぁ...」


 俺が叶江とケンカをし、距離を置いているといえば、どこか嬉しそうな顔をする沙原。
 俺はその様子に気がつかないふりをした。
 そうしている間にも近づく距離。


 「 愛都 」


 聞き慣れた声に呼び掛けられる。しかし俺は見向きをせずに横を通り過ぎようとした。


 「 待て 」


 パシリ、と掴まれる腕。そのせいで歩みは止められる。


 「悪いけど、疲れてるんだ。部屋に戻らさせてもらう」


 掴まれていた手を払い、立ち尽くしている沙原の手をとって寮の中に入る。
 沙原が目の前にいる手前、あまり強くものは言うことができないがそれでも、目も見ることなくハッキリとした拒絶の意思を向けた。


 そして部屋に入るまでの間、俺は叶江のいる後方へ一度も振り返ることなく歩き続けた。


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あきゅろす。
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