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リクエスト小説




 家を出て30分も経っていないだろう。
俺は来た道を戻ってマンションまで戻ってきた。

 ― それにしても、この噛み痕はどうしようか。上手く土屋に隠さなければ。


 そう言えば袖の長いTシャツがあったな、と思い出しながらドアを開け、中に入る。


 「おかえり、渉君」


 中に入ってすぐ。靴を脱ごうとしていた俺はその声に肩をビクつかせた。

 「つち...や、なんで...もう帰ってきて、」


 顔を上げた先にいるのは、口角を上げて笑む土屋の姿。だけど目は笑っていなかった。

 俺はまさかの事態についていけず、口をわなつかせる。あせりと緊張から大量の冷や汗が体を流れる。


 「あぁ、今日は早く仕事が終わったんだ」


 スーツの上着を廊下に脱ぎ捨て、ネクタイをゆるめながら土屋は近づいてくる。
 逃げることも何もできず俺は、はっは、と短い呼吸を繰り返し、過呼吸寸前だった。


 「約束を破ってまでして外に行って...どうだ、楽しかったか?」


 優しい口調。だが、俺は震えていて上手く口が回らず、いいわけも何も言えなかった。
 すると目の前まで来た土屋は俺の首元と肩口の匂いを嗅いできた。


 「....男物の、香水の匂いだ」


 「ち、ちが...っ、つちやっ、」


 一瞬にして目つきが鋭く細まる土屋。
有らぬことを疑われ、俺は必死に首を横に振った。

 動揺し、足がふらつく。靴のサイズが合わなかったせいで、変にバランスが上手くとれず体は傾く。
 だから俺は反射的に手を壁に着き、なんとか体勢を保った。

 「っあ゛!!痛...っ、」

 「随分と激しい相手だったみたいだな」

 痛みの走る手の甲。壁に着いたその手はあの男に噛まれた方だった。

 土屋はその手を見て、掴みあげると躊躇なく同じところを強く噛んできた。
 それは先程の男よりも強く、引きちぎられるのでは、と思うほどだった。

 「約束を破った挙句、男遊びか」

 「そんなこと、してないっ、俺はただいじめられてたやつを助けに、」

 「あぁ、あぁ、渉君...そんな嘘、俺は信じないよ」

 そういい俺に冷たい目を向ける土屋。
土屋は固まる俺を置いて、背を向けると居間の方へ歩いていく。


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あきゅろす。
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