[携帯モード] [URL送信]

協和音
31



 未だに震える体。
あれから土屋とともに俺の部屋に行き、着替えをするまでの間、俺たちの間には特に会話などもなく
ただただ、土屋は俺のそばにいてくれた。


 ベッドを背に、床に寄り添って座る。俺は握った土屋の手を離せずにいた。


 今、1人になるのが嫌だった。だから土屋をここにつなぎとめておきたかった。


 「...まだ、震えてる。一体何があったの...って、今聞いても無理か」


 しばらくして土屋は言葉を投げかけてきたが、俺は何も返すことができなかった。
 浴室であったことを...今はまだ思い出したくなかった。考えたくなかったから。


 「...え...んんっ、ふっ...ん、」


 「...少しは、落ち着いた?」


 急に土屋は俺の肩を掴むとそのまま唇を重ね、俺の口腔を舌でまさぐり、深く交わってきた。

 そして唇を離すと、いつもの、俺を茶化す時のような笑みを顔に浮かべた。


 それに対しどう反応すればよいのか迷い、茫然としていると今度は聴き慣れない音楽が鳴り響いた。
その音に俺はドキリとし肩をビクつかせた。


 「ぁ、ごめん。俺の携帯だ」


 そういい土屋はジャンパーの上着のポケットから携帯を取り出し、電話に出た。

 電話越しにしている会話は、妙に部屋が静まり返っているせいか、よく聞こえる。
 そして土屋が相槌を打ちながら聞いていた相手の話から“飲み会”という単語が聞こえた。


 「ん?それって今から?あぁ、うん、」


 すると土屋はチラリ、と俺の方を見てきた。


 ―嫌だ...今、一人になりたくない


 「えっ、ちょ、渉君!?」


 「....そばに、いてくれよ...」


 俺は土屋が返事を言うよりも先に、携帯を奪い通話を切った。
 握っていた土屋の手をもっと強く握り締める。


 「.....わかったよ。でも...渉君の行動次第かな」


 土屋は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに楽しそうに笑み、俺を押し倒してきた。

 再び重なる唇に対して、俺は必死に応えた。
飲み込み切れなかった唾液が口の端から垂れ、それを土屋が舐めとる。


 こんなことなんてしたくない、とはあまり思わなかった。
土屋に応えることが今の恐怖から逃れる1つの手段だと思ったからだ。

 こうしていれば、恐怖を考えずに済むし土屋も傍にいてくれる。


 こんな自分の体などに何も惜しむことはない。むしろ使えるのなら使ってしまえばいい。


 土屋の望むとおりに。



[*前へ][次へ#]

32/60ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!