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協和音
20



 「...急に、悪い。」


 「大丈夫だよ。それより中に入って。外寒かっただろ?」


 マンションのチャイムを鳴らし、開けられた扉の先にいたのはあの教育実習生...土屋の姿だった。
 寒空の下にいたせいで冷えた体を包み込むようにして土屋は俺を中へと引き入れる。


 「それにしても渉君から電話が着た時は驚いたよ。って、言っても嬉しさの方が大きかったけど。」


 「あんただったら暇そうにしてると思ったんだ」


 家を出てすぐ、俺が携帯を片手に連絡を取った相手は土屋だった。
 はっきりとした理由はない。ただ、なんとなく...ダチよりも先にこいつのことが頭に浮かんだ。


 「ま、兄弟喧嘩して苛々してんなら、これでも飲もう。ほら、座って」


 「へぇ、準備いいじゃん。つーか、未成年にそういうの飲ませちゃうんだ。先生のくせに。」


 「いいんだよ。俺もお前ぐらいの時は飲んでたし。それにお前もとっくに酒なんて飲んでんでしょ?」


 冷蔵庫から缶ビールを出した土屋はそれを俺に投げ、ソファに座るよう促してきた。


 ―1人暮らしの男の部屋にしてはやけに片付いてるな。


 ボフっ、とソファに座りあたりに目を向ける。きっと汚いだろうな、と想像していただけに何だか少し拍子抜けしてしまう。


 「なぁ、土屋って彼女とかいないの?」


 「うーん、寂しいことにいないんだよね。てか、1カ月前に別れたばっかなんだけどさ」


 「へぇ。そりゃ、お可哀そうなことで。」


 彼女がちょくちょく来て片づけでもしているのかと思ったが、違ったらしい。
 ってことは結構こいつ几帳面。...確かに見た目だけを言えば好青年な感じでそこまで不思議でもないが...しかし中身はそこまで好青年じゃないんだよな。


 「じゃあ、渉君は彼女とかいないの?」


 「...いない」


 「あははっ、渉君もいないんじゃん」


 おどけた様子で笑う土屋。しかし俺は作り笑いさえもできなかった。


 ―兄貴がいる限り、彼女なんてそんなものできるわけがない。いや、作るのが怖い...と言うべきか。
 それに本命も兄貴にベタ惚れだし。


 「そんなに落ち込むなって!ほらほら、たくさんあるから好きなだけ飲んで元気だしなよ」


 そういいニコリと笑った土屋の笑顔は、、昔見た兄貴の笑顔と少し重なって見えた。



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あきゅろす。
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