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協和音
18



 ―気持ち悪い。


 居間に入った瞬間、見た光景に俺は胸がムカムカとした。
 きれいに並べられた多くの料理に温かな雰囲気。笑い声、楽しそうにほほ笑む顔。

 そこにあったのは幸せそうな“家族”の姿だった。


 「...っ、」


 「おっと、大丈夫?」


 一歩後ずさると、不意に肩を軽く押さえられた。


 「...兄貴。」


 「あ!歩兄さんお帰りなさい!!」


 「あぁ、ただいま。それにしても、今日はすごいね。僕の誕生日なんてそんな豪勢にしなくてもいいのに」


 そう言い兄貴は俺の手を引いて食卓へと向かう。だが、見た目に反して俺の手を掴む兄貴の手の力は強かった。


 「ほら渉、席について。いつもの、僕の隣にさ。」


 三日月のように細まる兄貴の目。ゾクリ、と胸が震えた。大人しく兄貴のいうことに従うのは嫌だったが、
ギリリと手首が痛み、嫌々ながら席についた。
 そしてそんな俺を見て、漸く兄貴は手を離し自分も席に着く。

 チラリ、とあたりを見れば俺の方を一度も見ようとしない両親の笑顔が視界に入った。
 その2人の視線の先にいるのは当然のことながら、兄貴だった。


 「久しぶりに一家全員が集まったね!それじゃあご飯の前に失礼して.....はいっ!歩兄さんにプレゼント!!」


 そういうなりひよりは何処からか見覚えのある紙袋をだし、それを兄貴の目の前に差し出した。


 「え、僕に?ありがとう、ひより。すごく嬉しいよ」


 「どういたしまして!気に入ってくれると嬉しいんだけど...」


 「ひよりからのプレゼントなんて、何をもらっても嬉しいよ」


 ―戯言を...どうせすぐに捨てるくせに。


 「俺、これから約束あるからやっぱ行くわ」


 もう付き合ってらんねぇ。いつもは我慢できる兄へのひよりの笑顔もこの気持ちの悪い雰囲気も、堪えられない。ましてや兄貴の隣になんかにいたらもとより食欲も全て失せてしまう。


 「...お前はたった一人の兄の誕生日も祝うことができない不義理な奴なんだな」


 「なんでこんなにも歩と違う、正反対な子になったのかしら。」


 「...っ、」


 席を立った瞬間に言われた親父、そして母さんの一言で俺は身体じゅうに怒りを走らせた。


 ―何も知らないくせに...!自分だって利益の有無ばかりを考えて、俺を捨て、兄貴ばかりに目を掛けているくせに...っ、


 キッと親父を見、そして母さんを睨む。


 「父さん、母さんそんな言い方しなくてもいいだろ。渉は僕の大切な存在なんだ。そんな渉を傷つけるなんていくら2人でも許さないよ...」


 すると急に兄貴は笑みを消し、冷めた表情を作ると、俺とは違った形で2人を見据えた。


 しかしそんな兄貴も放って俺は足早に居間を後にする。
 後ろで兄貴の俺を引きとめる声が聞こえたが、そんなのは気にしない。


 ―そもそも、もとはといえば兄貴がいたからこんな比べられる生活を味合わされているんだ。
 

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