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協和音
17



 「渉兄さん、いる?」


 目が覚めてからも起き上がることはせず、茫然と天井を眺めていると静かな足音が聞こえ
扉をノックする音がするのと同時に、ひよりの少し高い声が聞こえた。


 「あぁ、いるよ」


 「よかった。あのね、夜ご飯の準備ができたから呼びに来たんだ!ほら、今日は歩兄さんの誕生日でしょ?すっごく豪勢だよ!」


 心が浮き立っているのか、ひよりの声音は少し上擦っていた。
 俺の誕生日には特に何もしない両親も、兄貴の誕生日はいつも盛大に祝うから大げさな両親の反応にきっと驚いているのだろう。


 「いや、俺はいい。これから出掛けるから俺の分はいらない」


 特に誰かと約束したわけではないが俺はそう理由をつけた。きっと電話すれば誰かしら連絡がつくだろう。

 そして立ち上がり傍にあった上着を羽織ると、携帯と財布だけを持ち扉の方へと歩いていく。


 「えー!せっかくの誕生日なのに...って、わっ!」


 扉を開ければすぐそばにいたひよりは軽く驚いて、一度一歩後ろへ下がったが、俺の外向きの服装を見て瞬時に道を塞いできた。

 その光景はなんとも愛らしく見えるが理由が兄貴のため、ということを考えるとあまりいい気持ちはしない。


 「どけて、ひより」


 「嫌よ、皆で楽しもう?歩兄さんの誕生日なんだから家族皆でじゃないと!ね?渉兄さんがいなきゃ意味がないよ」


 「...」


 俺の腕を掴み、上目遣いに見てくるひよりのことを直視することができず、俺は視線を下げる。


 ―やはり、複雑だな...


 ひよりの部分的な言葉だけを聞いていれば勘違いしてしまいそうだった。


 「ねぇ、出掛けるのは食事を終えてからでもいいでしょ?渉兄さんだけいないなんて...寂しいこと言わないでよ」


 「.....わかったよ、」


 そして、ついにそれ以上拒むことができず、やむなく俺は了承した。

 しかしその数分後、俺は了承したことを後悔することになった。


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