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協和音
12



 ―どう、しようか。今は近づかないでさっきいた場所でひよりを待っているべきか。
 だがひよりはもしかしたら兄貴と一緒に帰るかもしれない。まぁ、それならそれでいい。ひよりが帰りたいのであれば。


 「先に...帰るか、」


 ひよりにはメールでそのことを伝えておけばいい。そうすれば...


 「...っ!」

 
 ここから立ち去ろう、と右足を一歩後ろへ引いた時、不意に兄貴は俺の方を見て歪んだ笑みを向けてきた。
 その時の俺はまるで蛇に睨まれた鼠のように、その場にかたまってしまった。


 「渉も来てたんだね」


 兄貴は笑顔のままそばまで来、その表情とは相反して強く俺の腕を掴んできた。
 まるで逃がすまいとでも言っているかのような行動にギリリと俺の腕は痛んだ。


 「さっきさ、偶然ひよりと会ったんだ。ねぇ、ひより」


 「うん!すごいビックリしちゃった」


 俺の腕を掴んだまま、兄貴は駆け寄ってきたひよりにそう訊ねるとひよりは嬉しそうに笑んで答えた。


 「...ん?ねぇ、まさかとは思うけど...渉はひよりとここに来たの?」


 少し考えて発した兄貴の言葉。それと同時にスッと兄貴の顔から表情が消えた。


 「違うよ!歩兄さん。私も今、渉兄さんと会ったから...兄妹3人が同じ場所にそろうなんて、なんかすごいね」


 「ふーん...そうだよね。渉が誰かと買い物なんかするはずないよな。...僕とさえ、もうずっとしてないんだから」


 兄の様子の変化に気がついたひよりは慌ててそれを否定した。それはどう思って発した言葉なのだろうか、と俺は茫然としながら思った。

 まるで今日の日を無にかえされてしまったように感じ、ショックでそれからの兄貴の言葉など耳に入ってこなかった。
 家に3人で帰っている時も、ずっと。


 その後兄に帰る間始終熱い目で見られても、混み合った電車の中で兄に体を触られても、家に着いて1人で興奮した兄に執拗に犯されても...俺はずっと心ここにあらずといった状態だった。


 それはもう、まるで人形のように。



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あきゅろす。
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