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協和音




 「欲しいもの...か。それだったら、ペンダントが欲しいな。中に写真を入れることができるやつ」


 「ふーん、わかった」


 ――ペンダント、か。案外普通のものだな。兄貴はアクセサリーに興味でもあったのだろうか。

 用件を聞き終えた俺はそんなことを考えながらUターンし、扉の方へと向かった。


 「もう行ってしまうの、渉。もっとたくさん話そうよ、お互いのことを話そう?」


 「...そんなことする時間、ないから」


 「そういえばさ、最近一定の同じ男のこと一緒にいることが多いよね。夜遊びするのは良いけど、同じ子に固執するのはだめだよ?深い付き合いなんてもってのほか」


 「な...っ、あんた何言って、」


 「僕が知らないとでも思った?全部見てるんだから、ちゃんとわかってるよ。渉の交友関係は知ってて当然だろ。
あとさ、この頃ちょっと抜きすぎてない?渉の部屋のごみ箱に入ってる精子つきのティッシュの量いつもよりも多いよね?なんで、どうして?何かいいオカズでもできた?それとも――ヤり足りない?」


 「...っ」


 兄貴が一歩踏み出すと同時に俺は急いで部屋を出た。
 兄貴に対して言い知れぬ恐怖で心臓がバクバクとうるさく鳴っていた。


 おかしいおかしいおかしい...っ。交友関係なら調べられてるのでは、と一度思ったことはあったがまさか自慰の回数までチェックされてるとは思わなかった。

 ここまできたらもう、もしかしたら部屋の中を盗撮されているかもしれない。
 俺にバレないようにと口では言っていないだけで俺の部屋にいくつかの小型の監視カメラを設置して、ずっと見張られているという可能性もなくは、ない。


 ――怖い...っ


 兄貴が怖い。部屋の中を一応一度探ってみよう。


 微かに震える体。ふらふらとする意識。


 「なんで...なんで俺がこんな目に...」


 兄貴が俺なんかじゃなく、他の奴に執着すればよかったのに。そうしたらこんな思いを知らずに済んだのに。
 普通に生活することが、できたのに。


 俺の何に兄貴は執着しているんだ。俺は...俺は何もしていないのに...。
 

 自分の部屋の前に立ち、俺はきつくドアノブを握った。


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