君のことだけ考えてた。
5
あー...思う以上に結構きつい。でも...俺以外代われる奴いなかったしな...
それでも今更ながら断ればよかったと甘い道にそれるような言葉が何度も何度も頭に浮かんだ。
「こんな所でどうしたんだ、イズモ」
「あ、シイナ...」
食堂前の廊下で立ち尽くしていればいつの間にか目の前に現れた笑顔のシイナ。
どうしよう...言わなくては、
「あ、あの...今日のことなんだけど...」
「うん。あ、もしかして用事入っちゃった?」
力なく言う俺にシイナはそう優しく問いかけてきてくれた。
「...バイト、俺以外代われる奴いなくて、シフト今日入ったんだ...」
まさしくドタキャン。あぁ、なんてタイミングが悪いのだろうか。
せっかく服も髪型もキメて来たのに。こんなオチがあるなんてな。
「ごめん...」
いつもはあまり口にしない言葉をシイナに向ける。シイナはそんな俺を見ると眉を下げて励ますように微笑んだ。
「しょうがないよ。また今度一緒に行こう」
「でも...」
「バイト、頑張ってきて。それに俺、全然気にしてないからイズモも気に病まないで」
「え...」
優しいシイナ。それはシイナの優しさからきた言葉だったのかもしれない。
俺が酷く落ち込んでいたから。
だけど...それでも俺はシイナのその言葉にショックを感じた。
全然気にしてないの...?シイナは俺と出掛けることなんて別に何とも思ってないのか?
それに...なんでそんな風に笑えるんだ?
俺はこんなに一緒に出かけられないのがショックなのに。
にこやかに笑みを向けるシイナ。その姿が俺に二重の苦しみをあたえた。
「随分と笑うんだな...もしかして俺が一緒に行けなくなって逆に嬉しくなった?」
「...イズモ、俺はそんな風になんて」
「自分から誘ったはいいが、やっぱり俺と出掛けるのが面倒にでもなってたんでしょ」
「違うっ...ごめんな。俺、場違いな表情してたんだな。今度から気をつけるよ、だからそんな風に考えるのやめて」
「...どうだか」
口から出るのは虚勢を張った偽りの自分の心。こんなことシイナに言いたくなかった。
慌てて謝ってくるシイナに俺は胸が痛くなったが、発せられる言葉はやはり酷いものだった。
「イズモ...っ」
シイナを傷つけたくない。だけどそう思えば思うほど俺はシイナにきつく当たってしまう。
悪いのは自分なのに。シイナは全く悪くないのに。
でもシイナは俺を責めるようなことは一度も言ってこない。
「...っ」
居たたまれなくなって俺は早足にシイナの元から走り去った。
そんな俺の姿を悲しそうに見てるシイナの視線に俺は気がつくことはなかった。
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